第76話
「…………ジャーヴィス、生きてるか……?」
「……なんとかね……」
辛うじて2人は生きていた。
双弥は咄嗟に体内へ吸収した破気で、ジャーヴィスは聖剣の力で。
といっても本当にギリギリであった。普通の人間だったら木っ端微塵だっただろう。それに本来のハープーンより小さかったのも助かった要因だ。
それでもやはりミサイルを直撃したのだ。無事ということはない。体のあちこちは焼け焦げ、双弥は片耳の鼓膜が破れ、ジャーヴィスも左目を失明してしまっている。
それに全身に破片が刺さり、よく生きているものだと呆れるほどである。
だけど流石に動くことはできない。どうしたものか考える。
「刃喰……。リリパールを呼んできてくれないか」
『無茶言うなよご主人。離れすぎだ』
リリパールがいるところまでここから2キロ近く離れている。さすがに無理そうだ。
あれだけ派手に戦っていたのが静かになったのだから、おかしいと思って見に来てくれるのを待つしかない。
「片目……見えないや……」
「安心しろ。うちのりりっぱさんが回復魔法を使える。だから弱気になるな」
「無理だよ…………。あんなのどうやって倒せばいいんだ……」
ジャーヴィスの心が折れてしまっている。正直双弥もいつ折れてもおかしくはないが、実際に折れた人間が傍にいると案外耐えられるものだ。
逆にそちらへつられ、2人して負のスパイラルに陥る可能性もあるが、それだけは免れたようだ。
それにしても状況は絶望的である。ハリーが去ったところで冷静に考察できるようになっても良案が浮かばない。
それどころかハリーは『魔王の1人』『オレたち』と言っていた。つまり魔王は複数いるということに気付く。今はまだ絶望ができるだけマシとも言える。
もはや勝てるビジョンが浮かばない。一体どうしてこうなったのか。
「────そーぉやさまあぁーっ」
遠くから声が聞こえるが、双弥に聞こえたのは何度目かの呼びかけだっただろうか。破気を取り入れても痛みを軽減させる程度しかできず、立ち上がるのは厳しい。
あれだけ小さなミサイルでパーフェクトドラゴンのファイアフレムほどの威力があるのだ。立ち上がれても歩くのは厳しい。
なんとか片手を持ち上げ応えると、リリパールはエイカと共に駆けてきた。
「……また、約束を破りましたね……」
「い、いや、ちゃんと生きてるだろ……」
涙目で睨みつけるリリパールに双弥は苦笑いで返す。そして回復魔法を使おうと伸ばした手を止めさせる。
「悪いけど俺よりジャーヴィスを先に治してやってくれないか。あいつのほうが重傷なんだ」
「嫌です」
リリパールはきっぱりと断ってきた。
「なんでだよ。あいつは──」
「その前に何があったか教えてください。それにより考慮します」
リリパールの決意は固い。双弥は仕方なく全部話した。
「──わかりました。ジャーヴィス様から治療させていただきます。ですがその代わり……」
「その代わり、なんだよ」
思いつめたような顔をするリリパールに渋い顔を向ける。何か交換条件を出すつもりだろう。
「双弥様はキルミットに私と帰ってください」
「えっ、い、いや、それは……」
思わぬ言葉に返事が浮かばない。今日の今まで魔王を倒そうとここへ来、明日からまた進まねばならぬというのに何故そんなことを言うのだ。
そんな双弥の手にそっとリリパールは手を添えた。
「魔王の力はわかりました。双弥様では勝てるかわからないのですよね。でしたら私と共にキルミットで他の勇者様が倒すのを見守りましょう」
「なんでだよ」
「決まっています。これ以上双弥様を傷つけないためです」
リリパールは真顔で話す。
双弥ほどの力があれば魔王を倒すことができる。今まではそう思っていた。
だが実際戦い、手も足も出ずに死ぬ直前まで追いやられてしまったのだ。次戦って勝てる保証など微塵もない。
「リリパールは俺が傷つくのがそんなに嫌なのか?」
「当たり前です」
躊躇なく当然といった感じで返答するリリパールにどう言ったらいいかわからず、エイカに目を向けた。
エイカは口を出さないほうがいいと感じたのか、黙ってじっと見ている。
「双弥、僕はいつになったら助かるんだ?」
力ない感じでジャーヴィスが助けを求めてきた。
リリパールを見ると真顔で顔を横に振る。どうあっても双弥の返事次第ということだろう。
「返事はジャーヴィスを治した後じゃ駄目か?」
「ジャーヴィス様を治すというのが答え、でよろしいですか」
どうあっても治すことと双弥が帰ることはセットであるらしい。相も変わらず意固地な少女だ。
「……わかった。それでいい」
ジャーヴィスはこの世界で出会った同じ地球人の大切な友達であり、見捨てることはできなかった。
それを聞いてリリパールは笑顔で返し、ジャーヴィスのもとへと向かう。
「ちょぉっとふざけないでくれませんこと? 私の勇者よ」
このタイミングか。双弥は痛みに耐えねば動かせない手で顔を覆った。
驚いたリリパールは振り返り、仁王立ちで腕を組むエイカを見る。
「ちょっと最悪すぎないか? もうちょっと考えて行動してくれよ」
「それは私の台詞ですよ私の勇者。
破壊神が何を言っているんだと突っ込みたいところだったが、あえてそこは飲み込む。
「ジャーヴィスは見捨てられない。これは仕方ないことだ」
「なめたこと言ってんじゃありませんよ。私の勇者はそんなこと程度で道を変えるわけないですわ」
ちっ、と双弥は舌打ちをする。今説得すべきは双弥ではなくリリパールのほうだと言いたげだ。
そんなことは破壊神も承知である。だがリリパールはハゲの信者であり、破壊神の言うことなんて聞くとは思えないのだ。
「あ、あの、エイカさん?」
前もって事情を説明されていたのだが流石に実物を見ると驚くらしい。
もちろんそんなリリパールのことなんて眼中にもなく、
「だけど魔王は強すぎだ。俺の手には余るどころじゃない。押し潰されちまう」
「何を言ってんですか私の勇者よ。まだ破気使いこなしてないとか思いの外とろくさいのですね」
「どういうことだ……?」
「その刀を持ったあなたはハゲの勇者如き余裕で倒せるのですよ。同程度の力しかない魔王なんてものの数ではありません」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。同程度の力ってどういうことだよ」
聞いていたジャーヴィスが驚いたように聞く。そんなジャーヴィスを見下した目で一瞥し、フンッと鼻で笑う。
「そ、そもそも魔王は創造神に創られた存在だったんじゃ……」
「私ははっきりとそうだと答えておりませんよ。わかりやすく言うと魔王の召喚門……まあ
「それじゃあ僕らと同じじゃないか……」
つぶやくジャーヴィスに破壊神は塵虫を見るような目を向け、再び双弥へ顔を戻す。
「私の勇者よ。こんな自分の力を微塵も理解できていない小者と遊んでいるから自らの力も気付かないのですよ」
「だったらせめて使い方を──」
「ぬぅ、信力が足りないわ。溜まったらまた来ますわね私の勇者よ」
常に肝心なところで時間切れである。双弥は次に現れたときに何を聞こうかリストを作ろうと心に決めた。
「えっと、その……、どうしましょうか」
「とりあえずジャーヴィスから治してやってくれ……」
戸惑うリリパールに疲れた感じで双弥は答えた。
「双弥、僕はまだまだ強くなれるらしいんだよ!」
ほぼ完治したジャーヴィスは先ほどボロクソに負けたことなど気にしていない様子で興奮気味に話す。
双弥を治すには魔力が足りず、とりあえず鼓膜と大まかな傷だけ治したリリパールは脳の疲労のせいで座り込んだ。
「ああ。俺もまだ全然足りてなかったみたいだ」
破壊神の話が本当であるならば2人はまだ序の口でしかなく、力を使えればハリーくらい問題なく倒せるらしい。
だが生憎双弥たちはその方法を知らない。もし情報を得られるとしたら、セィルインメイを頼るしかない。
それでもわかるのはジャーヴィスだけで、双弥は自らで模索しなくてはいけない。大変な作業だが、やるしかないのだ。
「そんなわけだリリパール。騙す気はなかったが、俺は先へ進もうと思う」
「……わかっています。それが双弥様ですものね」
リリパールは疲弊したまま弱々しい笑顔を見せた。
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