第21話
「エイカ、仕事しようぜ!」
もちろんエイカが返事をしてくれるわけがない。しかし報告だけはしっかりと行う。
それを聞いて反応をしたわけではないが、服を着替え出かける準備をする。
以前は着替えすら自分でできなかったのに、少しは自分で動けるようになったのかと双弥は微笑む。
このまま暫くいればきっと心も戻ってくるかなと思いつつ、荷物をまとめて共に宿を出る。
双弥が見つけた仕事は護衛だ。
本来護衛をやるのは要人であればシルバーナイト、一般人であればホワイトナイトがやることだ。
しかし募集した人数に対し、請けた人数が圧倒的に少なかった。
そのため放浪者という扱いになっている双弥でも仕事をさせてもらえることになった。
行き先はソブリン。ここから南に行くとある町だ。
大人数で動いたほうが安全だし、正規ではないため少額になるが金がもらえる。一石二鳥だ。
「お待たせしました」
「おう、まだ全員揃ってないからいいぞ」
そう言ったのは武器商人の男だ。
昨日武器屋から出たところで知り合い、今朝方に依頼を持ってきたのだ。
どうも双弥が槍を買った店で訳有りの逸品があったらしく、本来ならばもっと少ない護衛でよかったところ、安全を考慮して増員したそうだ。
ものに関しては詳しく教えてもらえなかったが、ここのような要塞都市あるいは大きな町の武器屋でないと扱えない代物らしい。
そのため所有できるのもごく限られた本物の剣士のみ。悪人に渡るわけにはいかないのだ。
「それよりもその嬢ちゃんも一緒なのか?」
「一応俺の弟子ってことでね。大丈夫、いざというときに自分を守れるくらいの術は教えてある」
これはただの言葉の綾だ。確かに術は教えているが、それが通用するとは言っていない。
双弥が教えて数週間といったところか。エイカの練習量は異常ともいえるほどだが、それでも1ヶ月に満たない程度で使いものになれるほど武術は甘くない。
それから大して経たないうち、残りのホワイトナイトたちがやってきた。
これで双弥たちと合わせて10人が護衛というわけだ。
「おいおい、一緒に護衛するってのはそのガキどもか? それとも護衛される側なのか?」
ブレストプレートを装着した剣士が双弥たちを馬鹿にしてきた。
周りをみれば大体25~30歳ほど。双弥がガキに見えても仕方がない。
もちろんホワイトナイトでも若い人間はいる。だが護衛をやるには力不足とされている。
「一応これでも戦えるよ。一緒に動くんだからそのうち見せる機会もあるだろ」
「待てよ。パーティーってのはな、お互いの信頼が最も重要なんだよ。使えないヤツがいると俺たちに迷惑がかかるし、最悪全滅しかねない」
双弥は飄々とかわそうとしたが、そういうわけにはいかなかった。
これは難癖をつけられているようで、剣士のほうが正しい。実力がわからないものには何を任せられるかわからないし、背中を預けるのも不安だ。
「じゃあどうすればいい?」
「俺らと相手しろ。なあ、それくらいはいいよな?」
「好きにしろ」
商人も剣士たちの言い分がわかっているし、双弥の実力も見ておきたいため許可をする。
金を払うの相手が役に立たないとか笑い話にもならないからだ。
許可を得たとして、剣士が2人前に出てきた。
「そっちは2人でいいのか?」
「お前らも2人だろ。これでいいぜ」
「えっ」
双弥は焦った。まさかエイカまで頭数に入れられていたとは思っていなかったからだ。
自分だけなら最悪妖刀を抜けばいい。だが守りながらだとそれだけでは足りない。
「い、いや、この子は……」
「問答無用!」
試合ではないと言いたげに、2人の剣士は突然襲いかかってきた。
エイカと少し離れすぎていたため、守りが間に合わない。
「エイカ、舞花棍だ!」
その叫びに呼応したかのように、エイカは棍を掴み、もの凄い勢いで振り回し始めた。
「ぬっ!?」
隙のない棍の回転に、剣士は足を止めた。
これで多少は時間を稼げると双弥は槍を構え、もう1人の剣士の攻撃に備えた。
こちらの剣士も足を止め、槍をどうするか構え直した。
剣士は動けないでいる。
双弥はただ槍を相手に向けて構えているのではない。剣士が動く前にはもう槍先がそちらへ向いているのだ。
フェイントにも引っかからず、完全に先読みしている。
これは然程難しい技ではない。剣士の剣はトゥーハンドソードで長く重い。そのうえにブレストプレートとはいえ、重い金属を体に纏っているのだ。
それが意味しているのは、動くにはそれなりの力が必要であるということ。それはフェイントをすると更に顕著となる。
体を右に動かすと見せかけ、左に動かす。慣性のせいで逆に体を振る際、倍以上の力が必要となる。それが装備のせいで相当な力で行わないといけない。
つまり、フェイントの前にかなり踏ん張る必要があるのだ。力の動きがわかっていればそれが虚なのか実なのかすぐわかる。
このままでは埒が明かないと、剣士は強引に剣で槍を弾き、懐に入り間合いを詰めようとする。
だがその矢先、槍が剣を払い落としていた。
まさか槍が引きながら剣を絡めとってくるとは思わなかったのだろう。
剣を落とし、槍先を突き付けられて相手は降参した。
まず1人目。
双弥はエイカに顔を向けた。まだ剣士は舞花棍にてこずっていたようだ。
「刃喰!」
双弥の背中から刃喰が地面に向かって突っ込み、地中を潜って移動。エイカの足元から出現した。
「ぬおっ」
突然のことに剣士は驚き、後退りをする。
人間は驚くと視野が極端に狭くなる。双弥はその隙をついて柄を顎の下に滑らせる。
「勝負あったな」
「ああ、まいった」
そんな出来ごとがあってからもう5時間ほど。歩きながら棍を振る双弥とエイカを不審そうに見ながら一団は進んでいく。
商人を載せた荷馬車を囲うように徒歩で護衛する形だ。
「よお、そんなに同じ振り回し方ばかりやって何か役に立つのか?」
皆気になっていたことをとうとう我慢できず、1人の剣士が聞いてきた。
戦いというのは常に同じ状況では戦えない。場所も違えば相手も違う。だからやるならば様々な動きに対応した練習をしたほうがいいというのがこの世界の常識だ。
「基本がおろそかになっているといざというときに対応できなくなるんだよ。応用なんかその後でも充分だ」
「そんなもんかねぇ」
歩きながらでも行える練習であれば、常に足場が変わり状況の変化にも対応できるようになるし、なにより基礎がしっかりしていれば相手が何であろうと自分のペースに持ち込むことができる。
ただしそれも確実ではない。両者のバランスが重要だ。
エイカはまだ基礎をしっかりと固める時期だ。正直魔王を倒すまでどれだけの日数がかかるかわからないため、基礎だけで終わってしまう可能性もあるが、それでもやるとやらないでは大違いだ。
「よし、今日はこれくらいにしておこう」
双弥が言うと、エイカは棍を背負いそのまま歩き出した。
「しっかしその嬢ちゃん、全然反応しねぇな」
先ほどの剣士が興味深そうにエイカを見る。
人に知られても問題はないことだしと、エイカの経緯を話す。
すると他の護衛はおろか、商人までも泣きそうになる始末。
この世界ではぼちぼちある話なのだが、双弥のように面倒を見続けるなんて話は滅多にない。
ホワイトナイトをやっているのは荒くれものも多いが、何かを守りたいとして志願しているものも結構いる。
だが実際問題としてそんなことをやっていけるだけの余裕なんてない。皆後ろ髪を引かれる思いで切り捨てていっているのだ。
「そっか、お前も苦労してんだな」
「いや、俺は別に……」
「みなまで言うな。そうだ、嬢ちゃんだけでも荷台に載せてやってもいいぞ」
それはありがたい話だと思い、エイカに告げたのだが乗ろうとする気配がない。
相も変わらず何をしたいのか理解できないなと双弥は苦笑した。
そんな一行が湖と森に挟まれた道に差し掛かったとき、斥候をしていた男が慌てて戻ってきた。
「やばい、待ちぶせだ!」
一瞬にして全員戦闘態勢に入った。
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