第10話
「まじか!? で、どうなったんだ?」
「ああ、この村から出てくれるそうだ」
顛末を話すと先ほどの男は大喜びをした。
そして村中にその話をしようとしたとき、双弥は倒れた。
「お、おい! 大丈夫か!? ヤツにやられたのか!?」
「……頼む……飯を……」
「無茶な喰い方するなぁ。よっぽど腹減ってたんだな」
双弥は先ほどから胃を破裂させる勢いで食べ物を押し込んでいる。村人たちがかき集め、腕によりをかけて作った料理が台無しである。
一通り食い尽くしたところで双弥はぶっ倒れ、ごっつぉさぁんと呟いた。
村人たちは苦笑いをし、皆で食事を続けた。
「んでさ、どうするんだ? 商売道具はないだろ?」
胃が落ち着いたところで双弥は村人に尋ねた。
「なぁに、刃喰さえいなくなっちまえば新しいもんを買いにいきゃぁいいだけだ」
「そっか」
失った道具を再び購入できるだけの蓄えがあるということだ。生かさず殺さずで税を取り立てているわけではないのがわかる。
改めていい国だなと双弥は感心する。
しかし双弥はそんな国でお尋ね者だ。少々息苦しさも感じている。
「俺らのことよりお前はどうすんだよ。ええと……」
「ツヴァイだ。俺は東に向かって旅をしているんだ」
「東か。てこたぁこの先だと国境沿いのイフダンだな」
「町か?」
双弥は少しでも情報が欲しいため、体を起こし話を聞いた。
「ああ。街道から外れた小さな町だが、いい町だぞ。妹が嫁ぎに行ったんだ」
「街道沿いじゃないのに国境の町なのか?」
「国境沿いっつっても検問がないから隣国にゃ行けないが、特に目的のない旅なら是非寄ってくれ。ディップからの紹介と言えば飯くらい食わせてくれるぞ」
「それは有難い。寄らせてもらうよ」
ここ数日で食事というものがいかに重要かを改めて知り、食わしてもらえるなら行くべきだと考えるようになった。
この日はディップの家で厄介になり、翌朝、朝食と保存食をもらいご満悦で村を出た。
『おい』
突然呼び止められ、双弥は振り返る。が、誰もいない。
しかし正体はわかっている。昨日やりあった相手、刃喰だ。
「お前、まだこんなとこにいたのかよ」
『そう言うなって。こっちだって好き勝手動けりゃ苦労はねぇんだからよ』
「なんだそりゃ」
刃喰の話ではこうだ。
この大陸には循環魔素というものがあり、それらは人の目に見えぬが大陸のあちこちを巡っている。
魔素というのは魔力ではなく、魔物などに対して力を与えるエネルギーの流れのようなものだとか。
その中に魔素溜りという塊のようなものが存在し、魔素の消費が激しい刃喰はそれがないと動けないのだ。
通常循環している魔素と違い、その動きはゆっくりなうえ、流れの悪いところでは暫く停滞したりもする。この辺りが丁度その場所らしい。
魔素溜りの循環と共にでなくては移動できない。実に厄介なものだ。
「それじゃ話が違うじゃないか」
『仕方ねぇだろ。そん代わりあの村に手を出さねぇよ。それより……』
刃喰は地面を切り裂き現れ、双弥の周りをぐるぐると回った。
まるで値踏みするために見ているような、そんな印象を受ける。
少なくとも見た目はただの刃で、顔らしきものがないからわからないのだが。
『おめぇ、人間じゃねえだろ』
唐突に刃喰は双弥に言った。
「人間だよ」
双弥は呆れたように答えた。
的外れな刃喰の言葉にではなく、自分自身に対しての態度だが。
『はっ。人間があんなに純度の高い破気を持つ武器なんか持てるかよ。あんなものは……』
そこまで言うと刃喰は黙ってしまった。
何が言いたかったのか、そして破気とは何か気になっていたが、双弥は刃喰が言葉を発するのを待った。
『つーかよ、頑丈なのはわかったが、ありゃあなまくらもいいとこだぜ。ちゃんとした剣はねぇのか?』
続くと思っていた言葉は、別のものになっていた。
言いたくない、或いは言う必要がないことなのだろう。
昨日双弥の勝ちとなったが、あくまでも刃喰が負けを認めただけであり、本格的に戦えば双弥が勝つことはないことくらいわかっている。
そのため双弥としても強く聞くこともできず、話を合わせることにした。
「欲しいとは思うんだが、生憎俺の技に使える剣がないんだ」
居合道だからといえ、居合しかできないわけではない。それどころか基本的に抜刀して戦うものだ。
しかし双弥の中二心がそれを許さない。普通に戦うのであれば最初から剣道を習っていたからだ。
『なんだそりゃ。まあいいか。それよりおめぇよ、これから人と戦うことはあるか?』
「まぁな。一応お尋ね者だし……」
できれば戦いたくないのだが、そう簡単にいくわけもない。
だがこの世界には治癒魔法があることを確認している以上、殺さなければ問題ないと理解した。
『くひゃははは、そりゃいいや。なら俺と契約しねぇか?』
「え?」
『おめぇは武器が手に入る。んで俺ぁ好きなだけ剣を切れる。いいと思わねぇか?』
「だけどお前は魔素溜りとやらじゃないと動けないんだろ?」
『その剣がありゃ大丈夫だ。そいつから発する破気は魔素溜りなんかよりずっと俺の力になる』
その申し出に対して少し考えてみた。
刃喰は基本、刃物にしか興味がないだろう。
根拠としては、村にあった刃物以外が無事だったことだ。
つまり襲われたとしても、命令しない限り積極的に人を攻撃することはなく、それでいて武器だけ破壊し、無力化できる。
問題があれば納刀するだけで動きを止められるから刃喰を抑制できる。
見たところ刃喰には目などがない。そもそも土に潜っているのだから必要ないのだろう。
それでも人や刃物を感じ取れるということは、何かしらのセンサーみたいなものが働いていると推測できる。
ということは休憩しているときなどに周囲を警戒させるのに役立つはずだ。
刃喰と契約できるのは、双弥にとって多大なメリットがある。願ったり叶ったりだ。
「それもいいかもな……」
『よし決まりだ。よろしくな、ご主人』
『で、どうすんだよ』
「これからか?」
『ああ』
魔王を倒しにと言おうとしたが、刃喰は魔物だ。協力してくれないどころか襲い掛かってくる可能性がある。
もし共に戦ってくれるとしても、刃喰自体がこの世界の理でできているのならば、魔王にダメージを与えることができない。
「とりあえず……そうだな。帝国辺りに行ってホワイトナイトでもやるかな」
『なるべく戦う方針で頼むぜ、ご主人』
「俺としてはなるべく戦いたくないんだが……」
そうはいかないだろうとわかっているため、双弥は深いため息をついた。
刃喰という相棒を手に入れ、双弥は山道を進んでいった。
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