第28話 喧嘩……じゃ、なさそう? ー柚香sideー


私が体育館のところで、香樹の話を聞く少し前。




ん〜、朝のお薬飲んでたら長くなっちゃった。1組に一帆いるかな…?


宗介と空野さんがどこかへ行って、私は朝の薬を飲んでいないことに気が付いた。今日はトイレへ行って飲んできた。行きは薬のことしか考えていなかったが、良く考えれば1組の前を通ったのだ。帰りは会えるかもしれない。


私は少し期待をしながら1組の前を通った。するとすれ違った人の話し声が耳に入る。



「ねぇ、今のって菅原くん…よね?」

「佐久元くんに着いて行ったよね……しかも、体育館裏だよ?? これは…」

「うん、これは…」

「「喧嘩かっ!?」」



私は慌ててUターンをし、体育館裏へと急いだ。異常にテンションの高い会話だったことが気にならないくらい、私は焦った。








……そして、少し前にここに着いた。


ここから聞こえる声は、別に喧嘩腰ってわけでもなさそうだ。


そのことに私は胸をなでおろす。


そんなホッとした私の耳に、また何か聞こえてきた。



「おぅ。あ、この事、誰にも言うなよ? 柚香にも、知ってるってことバレねぇようにしろよ? …まぁ、だから柚香のことで聞きたいことあったら、いつでも聞いてくれていいから。教えられる範囲で教えてやるよ」

「…は、はぁ」



香樹の馬鹿みたいに大きな声は、耳を傾けなくとも私のところまでハッキリと聴こえた。



「……ばぁ〜か。もう、聞いちゃったよ」



私はそう呟くとハッとし、慌てて口を押さえる。


いくら離れているとはいえ、周りが騒がしいわけではない。この距離でも「誰かの声がした」くらいは分かるはずだ。現に向こうの声は聞こえている。


だが、心配とは裏腹に何も起こらない。恐る恐る覗いてみると一帆と目が合った。


やばいっ!!!


私の心臓は色んな意味で高鳴り出した。顔が、熱くなる。


私は取りあえず口に立てた指を当てる。「しーっ」っと小さく口にしてはみるが、さすがに この距離では聞こえないだろう。だが、伝えたい意図は伝わったらしく、少し微笑んでコクンと頷いてくれた。


あの香樹が一帆と仲良くやろうとしてくれているのだ。それも私に隠れて。なのに、早速バレたなんて知ったら、きっとこの話もなくなる……だから今はこの場からばれないように退散するだけ。


私は忍者顔負けの忍び歩きでその場から立ち去った。





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