番外編 ……はっ! ……何だ夢か。


「えぇー、ここに さっきの公式が当てはまるから、ここがこうなりますね。だから答えは…」



俺は今、とてつもなく退屈な授業を受けている。


何で授業は受けなくてはいけないんだろうか。勉強はしたい奴だけすればいいじゃないか。何で俺は、そんな勉強好きに付き合ってやらなくちゃなんねぇんだ! ねむ………あぁ、早く休み時間にならねぇかな……柚香に会いたい……。


窓の外を眺めながら そんなことを考えていた。


すると、何やら急に教室内が騒がしくなった。



「え、何でここに野良猫が!?」

「おい、誰か捕まえろ!」



ニャー


……猫?


クラスの騒がしさの中から、何やら猫の鳴き声が耳に届いた。ふと足元を見ると俺の足に猫が擦り寄ってきている。



「……可愛いな」



柚香も小さな頃はこうやって寄ってきてくれた。最近は思春期だからか、俺にはあまり近づいてきてはくれない。そんな小さな変化にちょっと寂しく思っている。


ニャー


そんな猫はまた鳴いたかと思うと、机の上に飛び乗り、そのまま俺の肩へと乗ってきた。



「え、ちょ……!?」



慌てふためく俺の耳元で その猫はもう一度鳴いた。



ニャー(お兄ちゃん!)



「……??」



今、お兄ちゃんって聞こえた気が……??



ニャー(助けて!)



この猫か!!!


俺は頬に擦り寄ってくる猫の顔を見た。その猫は俺を「お兄ちゃん」と呼んだ。どうやら俺は夢でも見ているようだ。



「どうしたんだ?」



ニャーニャー(遊んでたら戻らニャくニャっちゃった!)



猫の言葉が分かるのは、なんと幸せなことなんだろうか……。「な」が「ニャ」になってるとか……可愛すぎ!!!



「お前、馬鹿だろ」



ニャー(しょ〜がニャいでしょ!!)



俺は今、猫になった(多分)柚香ゆかと話してる!! そんなの、幸せすぎておかしくなりそうだ…。


そんな俺の状況を見て、クラスメイトはいつまでも騒ついている。


よし、場所変えるか。


そう思い、俺は肩に猫を乗せたまま立ち上がる。



「あ、ちょ、佐久元くん? どこ行くんですか?」



教室を出ようとすると先生に止められた。授業中だし、そりゃそうか。



ニャー? (どこ行くの?)



肩に乗っている猫も俺に問いかける。



「ちょっと場所変えよっかなぁって。じゃ、そゆことで」



それだけ言うと、俺は教室から立ち去った。























「……はっ!!」



俺はいつの間にか眠っていたらしい。いやぁ〜〜、実に幸せな夢だったわぁ。


そんなことを考えながら伸びをする。


あ、ちょっとトイレ行くかな。


授業中なので、一応先生に一言残す。



「せんせー、俺トイレ行ってきまぁす」



そうして俺は静まり返っている教室を後にした。




なんか、みんな俺のこと見てた? ………まぁ気のせいか。



























香樹の去った教室では……



「……え、佐久元くん寝言……え?」


「ニャーって!? 言ったよね!?!? ニャーって!!!」


「や、笑えねぇ…」


「ちょ、佐久元 どんな夢見てんだよwwwww」



この日から、香樹こうきは1組の皆の中で “ちょっと色々とヤバいシスコン” となってしまったのでした。

























いや、今までも十分ヤバいやつだけど……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る