第15話 優希、もう少し学習しろよな…。 ー 一帆sideー


やっぱり、柚香ゆか佐久元さくもとくんのことが好きなんだ。


柚香にとって佐久元くんは特別で、大切な存在で、俺なんかには100年かかっても 到底敵うはずのない相手。


そのことを改めて知らされた俺は、目の前の光景から顔を背けた。



「……はぁ。柚香、今度の日曜、暇か?」

「え? あぁ、うん。空いてるけど…?」

「よし。菅原すがわらも部活、休みだろ? クラスのやつが言ってるのが耳に入ってさ。暇だったら一緒に遊園地でもどうだ?」



佐久元くんの言葉に、一気に現実へと戻される。……いや、夢の中へと押されたのだろう。だって、こんなこと あるわけがない。

俺は驚きのあまり、何も返事が出来なかった。



「えっ、俺は?」



いつの間にか佐久元くんの後ろには、篠原しのはらくんがたっていた。



「ん? 何だ、宗介そうすけいたのか。気づかなかったわ」

「えぇ!? 酷くない!?」

「だって、お前が来るのは当たり前だし……もしかして、予定あったか?」

「ううん、全然! そっかぁ〜、当たり前かぁ〜」



よっぽど嬉しかったのだろう、篠原くんの頬はニヤニヤと緩んでいた。

……え、何この会話!? カレカノですか!?



「んで、菅原はどうする?」

「……い、行く」

「よし。んじゃ、そーゆーことで。ほら、早く教室戻るぞ」



佐久元くんはそう言うと、さっさと教室へと向かっていく。


俺は、佐久元くんのことが よく分からなくなった。良い人かと思えば怖かったり、逆に怖いなと思っていたら良い人だし。………単に俺が流されやすいだけか? そりゃあ、少しは敵意もあった。だって、柚香の特別な人だから。でも、それをとってみても、佐久元くんのことは 良く分からない。



「……あ、じゃあ俺も戻るね」



いつの間にか、佐久元くんから壁ドンを解かれていた柚香に一言残し、俺も教室へと向かう。


目の前で好きな人を壁ドンをされて、普通でいろと言われているのだ。そんなこと、俺には出来ない。


壁ドンとか頭をポンポンとか、それらは好きな人にやることだと俺は思う。まぁ、それがなくても、佐久元くんが柚香を好きなことくらい嫌ってほど伝わってくるけど。でも、やっぱり許せるわけでもない。


いくら両思いだからって「はい、そうですか」と引き下れるか? 残念ながら、俺はそんなに大きな器を持ち合わせていないんだ。


これが ただの八つ当たりだと分かっていながら、前を歩く佐久元くんの背中を睨む。



「…………はぁ」



こんなことをしても、何にもならないと言うのに。2人の両思いが変わるわけでもない、ましてや柚香の気持ちが変わるわけなんて……さっきの行動からは とても想像なんか出来なかった。


席に着くなりため息を吐いた俺に、隣から声がかけられた。



「…おぃおぃ。しっかりしろよ? 折角、俺らが計画してやったんだから、告白の1つでもしてこいよな。ったく、両思いのくせに面倒だなぁ〜」

「……は?」



佐久元くんの言葉に頭が追いつかなかった。


今、何て言った?? 俺が両思い?? 柚香と??? いや、それは佐久元くんのはず……。

あれこれ考えていたため、日直の号令が耳まで届いてこなかった。



「……おぉ〜ぃ。菅原く〜ん、嬉しいのは分かったからさ」

「………え? あ、ごめんなさい!」



隣からの声に、ようやく我に帰り立ち上がる。



「あぁ〜〜。やっぱり、菅原には佐久元の声しか届かないかぁ〜」

「もぉーー、仲良くなっちゃってー。さすが20分くらい一緒にトイレへ行っていただけはあるねーー」

「ほらほら、一帆かずほ、一緒に遊園地行けるのが楽しみなのは分かったから」



クラスの皆が俺を見ながら言ってくる。その中に紛れて優希ゆうきの声も聞こえた。



「おい、何でおお前がそれを知ってんだよ!」

「え、俺って忘れられてた!? 一緒に理科室から帰ってたのに!?!?」

「あ……そ〜だった、っけ?」



俺は記憶を辿る。確かにいた気がする。途中から本気で忘れていた。



「良い報告を楽しみにしてるぜ!」



優希が俺に向かってグッジョブとしてくる。それにまた反応するクラスメイト達。



「……はぁ!? え、一緒に遊園地って……お前らまさか付き合って……!?」

「嘘でしょ……? 菅原くんは普通だと思ってたのに……まさかっ!!」



いやいや、そこまで驚くか? ……いや、驚くか。ってゆうか、優希ももう少しは学習しろよな。言い方によっては おかしく聞こえてるんだから。



「…? ちょっと待て。それじゃあ俺は何だ? 普通じゃないってか!?」



佐久元くんが遅れて反応する。



「え? いや、佐久元は桜井さくらいさん一途だし。それに、あそこまで一途なのは普通とは呼ばねーよ」



あるクラスメイトの発言に、俺は心から同意をしていた。それが顔に出ていたのか、気配で感じたのか、佐久元くんはこちらを睨んできた。



「……」



俺は黙って顔を前へと向ける。教壇には涙目の先生が立っていた。



「……ねぇ、そろそろ授業を始めましょう?」


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