第24話 何だったら良いわけ?ー霰sideー

何が『ん? 2人って知り合いだったんだね』 だ。

そんなの知ってるもん………気づけよ、馬鹿。


ボクは心の中で悶えていた。


目の前にいるそーすけはボクのこと覚えてないっぽいし……それでも自分も馬鹿だったとは思う。








宗介と初めて出会ったのは、堅苦しい家から抜け出した時。家の近くの公園で雹牙と雪で遊んでいた。


あの友達のいない雹牙と遊んでくれるやつなんて、よっぽどの馬鹿か、雹牙のことを “使えるやつ” と理解したやつくらいだろう。


私たちの両親は会社を立ち上げている。それもそこそこ名の知れた会社だ。そこの長男ともなれば将来を期待され、将来のためにと仲を取り持とうと必死になる大人は後を絶たない。


そんな大人たちはずる賢い。仲を取り持つためなら自分の子供まで使ってくるのだ。だからきっと、あいつも……。



「ひょーちゃん、はい、これ」

「ありがとう。そーくんにも、はい、どうぞ」



2人のやり取りを眺めていた私は、雹牙に「そーくん」と呼ばれたそいつの顔を見た。


初めて見た………ここらの子じゃない? あぁ、だからか。


だから雹牙と遊んでる。この子は何も知らないから。私たちの苦労も、私たちに向けられる目も……何も。


ここら辺の子は私たち姉弟と関わろうとはしない。よく、テレビとかでお金持ちの周りには人が沢山いるけど、あれは大人の場合だけなのだ。


もし、私が誰かを泣かせても謝るのは泣いた方。それがもっと大事になると面倒なのは目に見えている。


どんな理不尽でも、許されるのがお金持ちだ。


だから、誰も関わろうとはしない。親がそうやって子供に教えてるから。


私たちがよく使うこの公園には誰も近づかないのは そんな理由。私たちに友達がいないのも、そんな理由。


まぁ、今日みたいなパーティーに出れば、暇を持て余した子供はいる。親に連れてこられた暇な子供。退屈しのぎに遊ぶ程度の仲。友達とまではいかないが、知らない仲でもない……ただそれだけの仲。


そんなやつらとさっきまで遊んでたんだけど、それにも飽きたから抜け出してきちゃった。雹牙はきっと、ここに逃げてるだろうって思ったから来たのに。なのに……誰、そいつ。


私は雹牙のところに歩み寄った。



「あ! あーちゃんにも、はい、これ」



私に気がついた雹牙は、そう言って作った雪ウサギを渡してくれた。そんな私に気がついたそいつは雹牙に問いかける。



「………ひょーちゃん、誰?」

「あんたこそ、誰? これ、取らないでくれる?」



そう言って私は雹牙を引き寄せた。私の方がお姉ちゃんなのに、何故か少し、雹牙の方が高い。


悔しい思いをしながらも、私は雹牙の手を握りしめ離さない。これは私のオモチャなの……誰にも渡さない。


隣にいる雹牙に目を向けると、私の服を可愛く着こなしていた。ぱっと見なら、女の子みたいだ。私はと言うと、女の子だからと伸ばされた髪をまとめ、フードにしまっている。着ている服も雹牙のだ。


そんな男みたいな私に「そーくん」は叫んだ。



「ひょーちゃんは “これ” じゃない! ひょーちゃんは僕の友達だ! 君はひょーちゃんの何だよ!」



雹牙の何……って、男みたいなお姉ちゃんですが何か??? こんなでもお姉ちゃんなんだよ!! 双子で全然見分けつかないって言われるけど、女なんだよ!!! 男と、しかも弟なんかと一緒にすんな!! ……ってこいつはまだ、そんなこと言ってないけど。



「何って……何だったら良いわけ? 友達? 姉弟? 親戚? それとも恋人? 何て答えなら許してくれるの?」



きっと、こんな聞き方はいけないんだろう。だけど、こんなやつなんかに雹牙を取られたくなんてない。雹牙は私の。どうせあんたも、私たちから離れてくんだから……雹牙を傷つけるんだから。



「………別に、何が良くて何が駄目とかないよ。だけど、ひょーちゃんは僕の大切な友達だから………だから、“これ” って呼んじゃ駄目!」



「そーくん」の言葉に、私は未だ握っている雹牙の手を強く握りなおした。


大人に「あぁしろ」「こうしろ」って言われて動くんだ、オモチャと一緒でしょ。“これ” って呼んで何が悪い! 何も知らない、馬鹿みたいに平凡に生きているあんたなんかに何も言われたくない!



「あ、あのね…? そーくん、お友達1人だけなんだって。僕と一緒でしょ。だからね、僕もお友達になったの。お友達が1人は寂しいから。2人になれば寂しくないでしょ? あーちゃんもお友達なろ? 3人になれば もっと寂しくないよ」



何も考えてないような顔をして、自分の考えを言う雹牙。


こういう時、「あぁ、雹牙はオモチャなんかじゃないんだ」って実感させられる。そんなの、私だって分かってる。


でも、あんな人たちの言うことを聞かなきゃいけないのは悔しいんだ。オモチャみたいに扱われるのが許せないんだ。私も大人にとってオモチャの1つ。雹牙も、こいつも。



「友達なんて、いらないじゃん。いつ裏切られるか分かんないものにすがって何が楽しいんだ」



ボソッと呟いた「そーくん」の顔は死んでいるようだった。それほどまでに無表情なのだ。さっきまでの笑顔も、怒った顔も何もない。感情を忘れたかのように無表情なのだ。


私は目の前の光景に目を奪われた。


だって、子供が見せる表情とはあまりにもかけ離れていたから。それはまるで、全てに絶望しているかのように……。



「あ、でも、こーきは俺の友達だよ! あいつは信頼できる! あ、ひょーちゃんもね」



そう言って雹牙に向けた顔には、またも笑顔が浮かんでいた。それもとっても幸せそうに。


コロコロと表情を変える「そーくん」に、いつの間にか惹かれている自分がいた。


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