第21話 当たって砕けろ、やって後悔、後悔先に立たずって言うし……。 ー 一帆&柚香sideー
「あぁ〜、楽しかった!」
「うん、そうだね」
アイスを食べたあと、俺らは色々なアトラクションに乗った。あの時の休憩はお互いにとって、良い気分転換になったようだ。
「もうそろそろ帰らなきゃだね…」
ふと、
『やっぱ最後は観覧車の中で告白っしょ!』
……分かってる分かってる。最初からそのつもりだから。俺は深呼吸を一つして、隣を歩く
「……さ、最後にさ。あれ、乗らない?」
俺の目線の先にあったのは観覧車。それに気がついた柚香は、少し顔を落とした。
「あ、も、もしかして高い所駄目……?」
「あ、ううん!! いや、その……わ、私も、乗りたいなって思ってたから……」
この言葉が俺の頭に繰り返し流れた。
お、俺、柚香と同じこと考えてたんだ……!!
「……そ、そっか。なら良かった」
俺は手の甲を口に当てた。きっと、今、俺の顔はニヤけてる。気持ち悪いくらいに、ニヤニヤとしているんじゃないだろうか。
こんなことで ここまでなってたら、もし……もしも、仮に、例えば、柚香と付き合えるとなったとき、俺は嬉しすぎて、心臓が止まるんじゃないだろうか。
そんな馬鹿なことを考えていたら、あっという間に俺らの番になった。
「次の方、どうぞ。ドア閉めますね。ごゆっくりお楽しみください」
ガチャン。
「…」
「…」
ドアの閉まる音を最後に、音が聞こえなくなった。きっと、観覧車の動くモーター音や、空を飛んでいる飛行機の音、下を走っている車の音、ジェットコースターの音なんかが聞こえているはず………だけど、そんな音も耳に届かないくらい、俺は緊張している。
ヤバい……ほんと、どうしよ……こ、こ、告白とか……。
下に落としていた目線を上げる。ふと、柚香と目が合った。
柚香も、俺を見てた…………?
「あ、え、えと……き、綺麗だね」
「あ、あぁ。うん、そうだな」
そう言って2人で下を眺める。……もうすぐ頂点だ。
再び、俺らの間に沈黙が訪れる。
頂点に差し掛かった時、俺は覚悟を決めて口を開いた。当たって砕けろ、やって後悔、後悔先に立たずとかって言うし……よし、大丈夫。
「あのさ!」「あのね」
私が話しかけるのと同時に、
「え、えと……先にどうぞ」「あ………先にいい?」
ま、また言葉がかぶっちゃったよ……。
思わず顔を下げてしまう。一帆と息があっていることが、この上なく嬉しくて恥ずかしい。
「じゃ、じゃあ先に………あ、あのさ……えと……」
先に言うと言ったのに、中々先に進まない一帆。何か言いにくいことかな? ………ま、まさか、私、口にアイスが付いてる!?
私は思わず口に手を当てる。
そ、そ、そんなわけない……よね?
「柚香ってさ、誰かと…………その……付き合ってたりする?」
「ふぇ? う、ううん。付き合ったこととかないよ?」
予想もしていなかった質問に変な声が出る。一帆はそんな声など気にならないようで、むしろ、私の言葉に微笑んでいるようにも見える。
………とか、自意識過剰すぎだな………私の馬鹿。
「そっか……そっか。じゃ、じゃあさ、好きな人とかは……?」
私は思わず顔を下げる。一帆の顔をみながら その質問に答えられる自信はないもん。目の前にいる一帆の顔を思い浮かべながら、私は答えた。
「…………うん、いるよ」
そう答えた柚香の顔は、とても幸せそうで…これが、俺に向けられたものだったら……なんてな。きっと、柚香の頭には佐久元くんの顔でも浮かんでいることだろう。
「………そっか」
告白する……と意気込んだけど、柚香の幸せそうな顔を見ると そんな気持ちも萎んでくる。でも、今日こそ言うって決めたんだ。俺はグッと拳を握りしめる。
「俺さ………ずっと柚香のことが好きなんだ。付き合ってほしい」
………今、一帆はなんて言った?? 私のことが……? 嘘、でしょ??? 本当に??
私は耳を疑った。わけが分かんなくて黙り込んでいた。
「………え、あ、ご、ごめん! そんなに嫌だった! ほんとごめんね! だから、泣かないで」
「……え?」
柚香の目からは涙が流れていた。それほど俺は嫌われていた……ってことか。振られるのは覚悟してたけど、泣かれるのはさすがに予想もしていなかった。
柚香は首を横に振った。
「……違うの……違うの…」
柚香は泣きながら言う。
「一帆が好きって言ってくれて 嬉しかった…………嬉しすぎて、涙が止まらないの……」
その言葉に俺はフリーズする。
……へ? 今、なんて言った!?!? 嬉しい??? え、本当に!?!? 夢じゃない!?!? 現実!?
柚香は今まで下げていた顔を俺に向ける。
「……私も、ずっと一帆のことが好きだよ………私で良ければ、お願いします」
首をかしげながら笑顔で言う柚香に俺は見とれてしまった。それほど可愛いと思った。柚香に抱きつきたい衝動を抑えながら俺は答える。
「…ううん、柚香が良いんだよ。柚香以外には こんな感情にならなかったから。柚香だけが特別なんだ」
一帆は真剣な顔で、私と合った目を反らさずに言った。か、一帆はこんなにも喋る人だったのか。それに私だけが特別って、嬉しくも恥ずかしい。
私の見ていた一帆は、私を見ていた………って、良く全然目が合わなかったね!? あ、いや、私のこと見てたとか分かんないけど…。
「あ、あの……そ、そ、それで…さ。その…」
一帆がまた何か言いかけた時、ドアが開かれた。
「お疲れ様です。足元に気をつけてお降りください」
案内役のお姉さんの指示に従い、俺らは観覧車から降りた。
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