第20話 少しだけ、ほんっとに少しだけな! ー 一帆side ー


ーーピロン。


柚香ゆかがコーヒーカップに乗ろうと提案し、向かっていると突然、誰かからメールが届いた。見ると それは優希ゆうきからだった。



『やっほー、皆んな大好き優希だぞ(´>؂∂`)

今は柚香とお楽しみ中かな〜??

途中で休憩挟んで、アイスでもいかがかしら?

そのついでに間接キスでもやってこいや!

んで、やっぱ最後は観覧車で告白っしょ!

ではでは、良い報告を待ってるぜぃ ´ ³`)ノ』



………こいつ、この場にいないことをいい事に………まぁ、でも少しは助かったかな。


俺はアホな優希に少し感謝しながら、メールを返信した。



『ご親切にアドバイス ありがとう。

明日、心の底からのお礼をしてやるから覚悟しとけ』



これでよし……と、携帯をポケットにしまうとすぐ、メール受信の音が鳴る。



『え、いや、覚悟!?!?

お礼してもらうのって覚悟必要なの!?!?

え、あ、ご、ごめんなさい!?


……でも、まぁ、楽しめよ。

明日、楽しみにしとくわw 』



やけに早いメールに返信する気が失せる。一体、優希はどれだけ暇を持て余しているのだろうか。


俺は後ろを振り返る。柚香は顔を少し下げ、ついてきている。何かを考え込んでいるようだ。彼女はちゃんと楽しめているのだろうか?



「……」



柚香が乗ろうと言ったコーヒーカップもあっという間に終わったが、柚香は相変わらず考え込んでいた。



「……少し、休む?」



俺は目に入ったソフトクリーム屋を指差して言った。



「あ、うん」



少し乗り気じゃないようにも見えたのだが、柚香の笑顔を見ると気のせいだったようだ。



「ん〜、美味しい!」

「柚香って、本当に抹茶好きだよな」

「うん! 大好き!」



小学生の頃から、柚香はよく抹茶のものを食べていた。抹茶のドーナツ、抹茶のチョコレート、抹茶のクッキー。


家に帰っても晩ご飯がないからと、コンビニで買ったものを よく公園で食べていたのを覚えている。何度、あの抹茶になりたいと思ったことか……いやいや、違う。何度、側にいたいと思ったことか…。


柚香が美味しそうにアイスを食べる姿に、さっきの優希からのメールを思い出す。



『そのついでに間接キスでもしてこいや!』



間接キス………か。バカ優希、少しだけ、ほんっとに少しだけ感謝するわ。


俺は笑顔で柚香に話しかける。俺の覚悟を悟られないように、自然な笑顔で。



「ほんと、美味しそうに食べるね」

「うん! 美味しいもん!」

「……じゃ、ちょっと頂戴」

「うん! ………うん!?」



よし、流れで「うん」って言わせた! 柚香が素直な子で良かった。…………俺は最低な奴だけど。そこはあまり深く考えず、俺は柚香のアイスへと口を近づけた。



「っ!?!?」

「ん、おいし。抹茶って、苦いイメージ強かったけど、アイスだとそうでもないんだね」

「……そ、そうだね」



う、うわぁああ!!! か、か、か、間接キスしちゃったよ!?!? こ、これは結構はずい……///


隣の柚香はというと、欠けたアイスを見つめたまま固まっている。顔はほんのり?赤く見える………気がする。


もしかして俺のこと、意識してくれてる?? ………いや、アイスを食べられて悲しんでるとか……かな?


そう思うと申し訳なくなり、俺は自分のアイスを差し出した。



「あ、ごめん。俺の一口 食べていいから」



柚香は最初、あたふたしていたが、やがて落ち着いたかと思うと一口アイスを頬張った。その一口は思ったよりも小さく、可愛かった。



「……ん、おいし」

「だろ? って、柚香、口小さいね」

「いや、そんなことはないよ?」

「俺、結構食べたから柚香も食べていいよ」



そう言って俺はもう一度、柚香へアイスを差し出す。柚香の食べた量が少ないから、とかそんなのはただの理由。本当は、柚香が俺のを食べる姿をもう一度見たかっただけ。………だが、柚香はそんな期待には答えてくれなかった。



「………い、いや。遠慮しとくよ」

「そ? ……まぁ、柚香が良いならいいけど」



……少し残念。いや、とても残念。でも、こんなこと言ったら、きっと気持ち悪いって言われるだろうな。嫌われるだろうな。


隣の彼女きみは知らない。





















俺がこんなにも大好きだということを。



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