第19話 期待しちゃうじゃん、バカ!!!! ー柚香sideー


ーーピロリン。



「あ、ちょっと待ってね。香樹からメールが来たみたい」



ジェットコースターが終わり、すぐにメールが鳴る。この音は香樹からだ。携帯を開くと2件来ていた。



『宗介と先に回ってる。終わったら連絡して』


『やっぱ帰る。後は2人で楽しめよ』



最初のメールが5分前だから、さっきの音は2件目のメールになる。


……え、何? 5分で何があったの!?


私がメールに目を落としたまま固まったのを不思議に思ったらしく、一帆かずほが声をかけてきた。



「どうしたの? 佐久元さくもとくんに何かあった?」

「あ、ううん。何か、先に2人で帰るって」



顔を上げると、一帆の顔は思いの外近かった。



「……っ!?!?」

「あっ………え、えと、この後どうする?」



お互いが慌てて顔を離す。ちらりと横目で見た一帆の横顔は、どこか赤く染まって見える………のは気のせいだろうか?



「あ、んと……じゃ、あれでも乗る?」



私はコーヒーカップを指差しながら一帆を見る。



「うん、柚香ゆかが乗りたいなら何でもいいよ」



そう言って微笑んでくれた。


……きっと、彼なりの気遣いなんだろうけど、その言い方はちょっと寂しい。それじゃ、まるで私だけが楽しんでるみたい……。


一応、意見の一致した私たちはコーヒーカップへと歩き出す。少し前を歩く一帆の背中を見ながら歩く。


最初は、隣にいれるだけで嬉しかったはずなのに………今では、彼の言葉にさえ “こんな言葉を言って欲しい” って欲が出てきてしまう。きっと、そのうち彼に私だけを見て欲しいとか思うようになるんだろう。彼に愛して欲しいと願うんだろう。


少しずつ変わる自分の気持ちが怖い。


欲が大きくなっていく自分の心が怖い。


気づいてもらえないこの気持ちが寂しい。


今、隣にいれることが愛おしい。


彼の笑顔が愛おしい。




……たくさんの気持ちをあなたから教わった私は、きっと、世界一の幸せ者だね。












「……柚香?」

「へ? あ、あぁ、ごめん。ちょっと考え込んでたよ」



何だか最近、一帆のことを考えてぼーっとしてることが多い気がする。ちょっと、気をつけなければ…。



「あ、次、どこ行こっか?」



考え込んでいた間に終わってしまったコーヒーカップから離れ、目的もなく歩き出す。



「……少し、休む?」



少し足取りの遅い私を気遣ったのか、ソフトクリーム屋さんを指しながら聞いてきた。



「あ、うん」



2人でソフトクリームを買い、近くの椅子に座る。私は抹茶で、一帆はチョコとバニラのハーフ。



「ん〜、美味しい!」

「柚香って、本当に抹茶好きだよな」

「うん、大好き!」



……って、私が抹茶好きなこと、一帆に言ったっけ? ま、いっか。



「ほんと、美味しそうに食べるね」

「うん! 美味しいもん!」

「……じゃ、ちょっと頂戴」

「うん! ………うん!?」



流れで「うん」と言ったけど、今のは結構 大変なことじゃ……!?


ちょっと待ってと制止する前に、抹茶ソフトクリームの一部が一帆の口の中に消えていた。



「っ!?!?」

「ん、おいし。抹茶って、苦いイメージ強かったけど、アイスだとそうでもないんだね」

「……そ、そうだね」



私は一帆が食べた後のアイスを見つめたまま答える。


え、これって、か、か、か、か、間接キ、キ、キスと言うものでは!?!?!? あれ!? 意識してるのって私だけ!?!? もしかして、私、女子として思われてない……??


口をつけるか迷っていると、何を勘違いしたのか、隣からアイスが差し出される。



「あ、ごめん。俺の一口 食べていいから」



いや、そういうことじゃないから! 誰もアイスを食べられたからって落ち込んでたわけじゃないから!!


だからと言って、このチャンスを逃すわけにはいかない。私は思い切って、一帆のアイスに口をつける。



「……ん、おいし」

「だろ? って、柚香、口小さいね」

「いや、そんなことはないよ?」

「俺、結構食べたから柚香も食べていいよ」



もう一度差し出されたアイスに誘惑されたが、何とか思いとどまった。だって、これ以上一帆のアイスを口にすると私の心臓が持ちそうになかったんだもん。



「………い、いや。遠慮しとくよ」

「そ? ……まぁ、柚香が良いならいいけど」



何で、そんな “ちょっと残念” みたいな顔してるの?? ………………期待しちゃうじゃん、バカ!!!!


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