第18話 じゃ、帰ろぉぜ。ー香樹sideー


……とか何とか言ったけど、どうしたものか。



「はぁ」



自然とため息が漏れる。

だって、俺の柚香ゆかが他のやつのものになっちまうんだぞ!? そりゃため息も出ますって………はぁ。


あの時、廊下で柚香は俺のことを頼ってくれた。それは死ぬかと思うほど嬉しかった。でも、それと同時に ちょっと菅原すがわらが可哀想に思えてしまった。いや、ほんのちょっっっっっっっっっっっっとだけな!!!


それでも、俺らのことを知らない菅原が万が一にでも柚香を諦めたら、両思いだったことを知った柚香を悲しませてしまう。


それは俺の望んでいるものではない……ただそれだけ!! 柚香の笑顔を奪わないために、俺は柚香を譲ろうとしているだけなんだ………けど。



「はぁ」

「もぉ!! そんなに嫌なら、“2人をくっつける”なんてしなきゃいいじゃん!」



何回もため息を吐く俺に、いい加減我慢がならなくなった宗介そうすけが怒鳴る。



「んー、すまん」



俺は生返事をし、携帯で柚香にメールを送った。



『宗介と先に回ってる。終わったら連絡して』



………やっぱり悔しいけど、あいつといる方が柚香も楽しそうだからしょうがない。



「……はぁ」



これが俺の考えた結果だ。俺よりも菅原がそばにいた方が、柚香も少しは心が軽くなるだろう。もし、虐められたとしても俺が止めてやるし。



「……でもなぁ…」

「もぉ〜〜!! そんなに嫌なら しなきゃいいじゃんってば!! あのさぁ、そんなに俺と回るの嫌?」

「別にそんなこと言ってねぇだろ?」

「じゃあ何で俺と回ってるのに、そんなため息ばっか吐くんだよ! この前もそうだったろ?」



………どうしたどうした?

いつになく宗介が起こっている。……というか、ここまで起こっているのは初めて見た。



「いや、それはたまたま……」

「もぅいい。俺、帰る」



そう言って宗介は出入り口の方へと向かって歩き出す。

こいつ、ガチで帰るつもりじゃね??



「お、おい ちょっと!! 待てって!! 悪かったから機嫌なおせって!」



俺は宗介の後を追い、腕を掴む。



「……離してくんない? 俺、帰りたいんだけど」

「やだね、帰らせねぇ」

「……っ! 大体、香樹こうきが悪いんだろ!! あいつら勝手にくっつけようとして、勝手に落ち込んで!! 俺といる時間に落ち込んで

、そんなに楽しい!? 俺への当てつけだろ!?!? 俺なんかといても楽しくないっていうさぁ!!」



宗介の本気さは、潤んだ目を見て改めて知る。


俺は何でこんなになるまで気がつかなかったんだろうか? 大切な友達を………いや、たった1人の親友を こんなにも傷つけて…。


周りがチラチラと こちらを見ながら離している声が聞こえる。



「え、何? 破局かなんか?」

「いや、あれ、男同士でしょ」

「“そーゆー関係” かもよ♪」



……そーゆー関係って、どういう関係だ?

まぁ、そんなことより、今は宗介をどうするか。俺、今まで誰かと喧嘩してもそのままだったから、仲直りの仕方?とかよく分かんねぇんだけど……謝ったら許してくれるか?



「わ、悪かった。ほんとに……お前に頼ってばっかで。でも、俺には友達なんて呼べるやついないからさ……柚香こと、親父達に言えるわけねぇし…だから、お前にばっか頼ってた。すまん、マジですまん」



俺は今までになく素直に頭を下げた。初めての仲直りに、初めての頭下げ。それでも宗介は機嫌を直してはくれなかった。



「……で? 俺はもう帰るって決めたんだけど。そろそろ離して。それと痛い」

「あ、すまん………宗介が帰るなら、俺も帰るわ。ちょい待ち、柚香に連絡しとくから。……後は2人で楽しめよ、っと。おけ、じゃ帰ろぉぜ」



そう言って俺は歩き出す。宗介はそんな光景をポカンと眺めていた。正直、何に驚いているのか分からない。だって、宗介と回りたくて誘ったのに、その宗介が帰るって言うんだぞ? そりゃあ俺も帰りますわ。



「ほら、早く帰ろぉぜ〜」



んや、それ以上に宗介といたい。宗介が許してくれていなくても、ただ、隣にいたい。

数歩 歩いて振り返り、中々歩き出さない宗介に声をかける。



「何だ、帰らねぇのか? 置いてくぞ?」

「〜〜っ!! バカ香樹!!」



それだけ放つと、小走りで横に並んだ。俺は隣に来てくれた宗介の暖かさを感じながら、そっと微笑んだ。


















…………しかし、俺は何で ここまで宗介に執着しているんだ?




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