第5話 儚き初恋
教室に戻ると、もうほとんど給食の準備が終わっていた。
俺は黙って席に着き、挨拶を待つ。この学校では、給食委員なるやつが全員揃ったのを確認し、「いただきます」の挨拶をするのだ。
給食委員が教卓の前に立ち、クラスを見渡す。
「手を合わせて下さい。いただきます」
その挨拶から一拍おき、クラスも「いただきます」と続く。そこからはよくある給食風景となった。隣のやつと話したり、嫌いなものを食べてもらったり。
俺は? 別に? 友達なんてそんな要らないんで? というか、怖がられるので? 友達なんて作れませんし? 別に? 寂しくなんてありませんし?
とか半分八つ当たりのように、給食委員を睨む。それに気づいてないらしいそいつは、何気ない顔で自分の席へと戻った。
いや、八つ当たりだけじゃねぇの。この声どっかで聞いたんだよなぁ……どっかで…いや、給食委員だから毎日のように聞いてんだけど。そうじゃあなくてさ。……どっかで…。
そんなモヤモヤを抱えたまま、給食時間はあっという間に終わってしまった。
昼休みといえば、男は外でサッカーを。女は教室でお喋りを。…というイメージが強かったが、女もあんなにアクティブだったのは少し意外だった。
クラスには俺を含めて3人しか残っていない。それもザ・隠キャって感じの男と、本を読んでる女。そして誘ってくれる友達いません臭漂う俺。
女の方は一人で本を読むのが好きらしく、別のクラスのやつがそいつを訪ねて来た時、少し残念そうな顔をしていた。
少しして、教室に先生が来た。
「あ、これ、昨日の小テスト。返却しといてー」
小さな束を教卓の上に置くと、英語…だったか。とりあえず、何かの教科の先生はさっさと立ち去ってしまった。
本を読んでた女は一瞬立ち上がろうとしたが、友達との会話を優先させ、見て見ぬ振りをした。
ザ・隠キャくんは横目でそれを見ると立ち上がり、何も言わず配り始めた。いいねぇ、「僕が配るから気にしないで」的な? ……おっさんかよ、俺。
はぁ。とため息をつくと俺はザ・隠キャくんからプリントを半分奪うと配り始めた。
さっさと終わらせると、俺は4組へと向かった。
4組の前に差し掛かった時、開いた窓から柚香の声が聞こえて来た。どうやら廊下側の席だったらしく、少し近づくと後ろを向いて話しているのが見えた。
「宗介、さっきの
「さっきのって?」
「いや、だから空野くんのこと。女装してた空野くんを女の子と勘違いして、ずっと好きだったって……」
後ろから話しかけると、俺だとは気づかなかったらしい柚香は素直に話してくれた。…マジ天使。……ってか、今、なんて…???
柚香は何か違和感を覚えたらしく、恐る恐るといった感じにこちら向いた。
文字通り青い顔をした柚香に、俺は満面の笑みを向ける。
「へぇ〜? 何、その面白そうな話。詳しく聞かせろよ。仲間外れなんかしなくてさ?」
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