第4.5話 俺はフラグ回収車か何かですかね? ー宗介sideー


「んじゃ、俺は教室帰るわ」と言い残して、原因物質は早々に立ち去った。


いや、どーするよ、コレ。

香樹が教室に帰った後の、4組の雰囲気。何とも言えない程 重々しく、どんよりとした空気。今すぐにでも窓を全開にし、外の空気が吸いたい。


バンッ!


俺の心でも読んだのか、クラスの女子の1人が窓を開けた。それも、力任せに。




「はぁ〜〜、お腹減ったなぁ〜。ほら、外からいい匂いするよ? うちのクラスも早く準備しようよ」




黒くて長い髪の毛をなびかせながら言ったその子の一言に、クラスの皆が我に返ったように動き出す。一気に耳に音が戻ってきたようだった。それほどまで、先ほどは静かだったということか。


クラスに向けていた目を、再び彼女へと向ける。一見、大人しそうに見えるその横顔は、どこか懐かしく思えた。

あの子、どこかで………。




「今日はチキンカレーみたいだね」




そこで柚香が帰ってきた。

だが先ほどとは違い、柚香への中傷もない。


…でも、違うのは それだけではなかった。柚香を見る目が変わったのだ。[生意気な子]から[怪しい子]にでもなったのだろうか。まぁ、話しかけて来られなけれりゃ 少しは楽に……




「ねぇねぇ」




…ならなかった。

俺はフラグ回収車か何かですかね?

はて、いつから そんな仕事をし出しただろうか?




「どこか、具合が悪いの?」




柚香に話しかけてきたのは、先程の彼女だった。質問をしながら可愛らしい顔を傾げる。それに合わせて、揃えられた黒くて長い髪の毛が揺れた。




「え? あぁ、ちょっとね。大したことはないよ」


「ふぅ〜ん。…桜井さくらいさんはさ、ボクのこと覚えてる?」




どうやら、柚香と同じ学校らしい。

……え? じゃあ何で俺は懐かしいなんて……?




「え、えっと……空野そらのさん?」


「そうそう。空野 あられだよ。小学校の頃、何回か一緒のクラスになったんだけど、あなた、よく学校休んでたし。学校でも、よく こそこそとどこかへ行ったりしてたでしょ? だから何かあるのかなぁ〜とは思ってたんだけど、具合が悪いんだね」




え、この子どんだけ柚香のこと見てたんだよ。つか、そこまで見てて何もしてないって どうなの?


俺は 思わず空野さんと呼ばれたこの子を凝視する。




「あ……えと…まぁ、その…」




柚香は事実を言い当てられてか、俺に助けを求めるようにチラチラとこちらを見る。


ほら、柚香が困ってんじゃん。

……いや、しかしほんと どっかで…


そんな柚香の求めを無視し、俺は必死に昔の記憶を探ってみる。だが、探せど探せど出てくるのは あの嫌な記憶ばかり……。




「見てて何もしなかったのは、ボクがあなたに興味がなかったからなんだけどね? 心配してたのは あっち」




そう言って、顎で出入口を指す。

頭ではまだ考えながら 出入口に目を向けると、そこには体を半分ドアに隠した男子が立っていた。いや、男子と言うより 男の娘と言う方が合っているだろう。




「ぁ……えと、どうも……」


「ボクの双子の兄、雹牙ひょうが。女っぽいけど、あれでも一応 男だから」




霰と名乗った目の前の子によく似た可愛らしい顔が半分、ドアから覗いている。肩まである癖っ毛が、一層女の子のようにみせていた。そんな可愛らしい顔とは相反した身長の高さ、そして学ラン。何ということでしょう……スタイルのいい童顔少女が応援団してます…みたいな?


いや、うん。学ラン着てるから男とは分かるよ? 応援団とか冗談だけど……でも学ラン着てなかったら女の子って本当に間違えるかも……ん? 待て待て、嫌な予感が……




「ぁ、もしかして そーくん?」


「へ?」




ドアに隠れていた もう半分の頭を出して癖っ毛を揺らしながら、間違いなく俺に向かって手を振っている。




「……え、あ……も、もしかして、ひょーちゃん!?」
















フラグ回収乙。


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