3話 : 失礼なアホヅラに一言
「はぁぁぁぁ〜〜〜」
「ちょ、隣で盛大な溜め息を吐かないでよ」
入学式の帰り道、俺はため息ばかり吐いていた。だってそーだろ?
まぁ、そんな俺に呆れて
「だってさぁ〜。………ってか、お前は良いよなぁ。柚香と同じって。ズルだ、ズル」
「ズルって……お前はガキか?」
また隣からため息が聞こえた。もう今日でどんだけため息吐いたんだよ。あれだな、中学なったら彼女作るってお前の夢、叶わなねぇよ。絶対。
俺は1人、永遠の仲間となった宗介を横目で見た。奴は「溜め息を吐くと幸せが逃げる」という話を思い出したのか、慌てて息を吸っている。
そんで「いやいや、こんなことしても幸せはやっては来ないよな」って顔して息を吐く。
4歳の頃からだから、宗介とはもう8年の付き合いになる。そんだけ長く一緒だと、表情だけで考えてることも大体想像が出来る。……ってか、こいつが分かりやすいってゆーか?
俺は少し口元に笑みを浮かべた。が、すぐに引き締め、真面目なトーンで話しをふる。
「ほんと………お前、さっきの忘れるなよ?」
もうすぐ別れ道って所で俺は足を止めた。つられて宗介も歩みを止める。
「ん? さっきの?」
何に緊張しているのか、宗介はゴクリと唾を呑んだ。
「柚香に何かあったらただじゃおかねぇ…ってやつ」
「あ、あぁ」
宗介の緊張も切れたようで、自然と入っていた力が抜ける。……あ、力が抜けすぎて肩から学バンの紐が片方ずり落ちた。
「柚香は……あいつは小さい頃から身体が良くなくてな、薬を飲んでるんだけどよ、マイペースっつかアホだから よく飲み忘れるんだわ。だから、給食前と後には声かけてやってくれね〜かな?」
「……あ、あぁ。それくらい 全然…」
俺は宗介の目を見て頼んだ。大切な妹の事だ。それに柚香の方から、俺らが兄妹ってことを秘密にしようと言ってきた。それもお腹の辺りで祈るように手を組んで俺を見てきた。……つまり、何か隠してる。
柚香が何を隠したがってるかは分からねぇけど、良い事じゃないのは分かる。良い事隠す時は、手を開いて合わせて口元に寄せるから。それに絶対目を合わせねぇし。
だから、その「何か」が分かるまで。それまでは大人しくしておこうと流石の俺も思ったわけよ。柚香が少しでも頼れる人は1人でも多い方が良いから。…な、宗介。
「じゃ、宜しく頼んだ」
って、真面目に考えて言ってる俺に対して、目の前のアホヅラ晒してるコイツは失礼な事考えてるな? ぜってー。間違いねぇ。
俺は背を向けながら失礼なアホヅラに一言残した。失礼な奴にはお仕置きを…なぁ、宗介。
「んじゃ、またな。柚香から話聞くから、何かあっときは……な?」
宗介の顔は見てないけど、どんな顔をしてたか想像がついて、俺は頬を緩ませた。
*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*
2日間に渡る実力テストも昨日までで終わり、今日から給食ありの普通授業。そんな今日は宗介とは別々で登校になった。しょうがねぇ。柚香が体調悪いってんだから。
でも、本人は大丈夫だって言って、もう学校にも着いた。何があるか分からねぇから、俺的には家で大人しくしといて欲しいんだけど。
柚香は意地っ張りだからなー。しょうがねぇよなー。とか思いながら柚香の後から階段を登っていた。…すると、3階の廊下に見知った奴がいた。
「おはよ〜、宗介。……あっ、呼び捨てでも大丈夫?
背後からかけられた声に驚いたのか、宗介は立ち止まるだけで、すぐには振り向かない。また何か失礼な事考えてたんだろ。
「あ、いや……ウン、ダイジヨウブダヨ」
ゆっくりとこっちを見たと思ったら、片言で喋りだす。こいつ、たまに片言になるけど日本人だよな?
ってか、何? 柚香に声かけられるとかもっと喜べよ。……ってか、もう名前呼びかよ! 俺なんてな、名前呼ばれるまで2ヶ月はかかったんだぞ!? それまでは「お兄ちゃん?」って不思議そうに呼んで…まぁ、それも可愛かったけど!! 何か!?
……と、まぁ、凄い顔をしてるんだろう俺の事には気づかず、呑気に柚香は俺の方を振り返った。
「じゃ香樹、またね」
「おぅ」
当然のごとく、柚香には満面の笑みを向ける。あー、可愛い。抱き締めたい。
チラリと宗介の方に目をやると、「えっ!? さっきまでツノが生えそうな鬼の顔だったのに!? 何で妹にはそんな顔すんの!?! 俺には??!?」とでも言いたそうな顔をしている。バカヤロー、妹だからだ。
まぁ、柚香はまだ大丈夫そうだし。相変わらず可愛いし。宗介の面白い反応も見れたから教室に戻るか。
俺は2人に背を向けて歩き出した。
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