2話 : 俺は決してストーカーなどではない。


あの柚香ゆかからの言葉は俺にとって大きな衝撃を与えていて、あの後、宗介そうすけに電話で7時間ほど話を聞いてもらった。




「やっと中学だぁ〜〜〜〜!!!」


「うん、分かったから。今日でその言葉何回目だよ」




俺のテンションがウザかったらしく、横で宗介が冷たい目をしている。いや、表情自体が死んでる??


つーか、一緒に聞こえてきた大きな溜め息も今日で何度目だよ。人のこと言えねぇじゃんか。だって待ちに待った中学だぞ!? 抑えきれるか!!


そう、俺たちは今日から中学生になる。俺たちの通う中学校は、2つの小学校が合併してなる2小1中というやつだ。そして、それは今日から毎日柚香と同じ学校に通えるということ。


ちなみに、近所にある柚香の家は道路を挟んで向こう側。2分で着くそこは校区外なのだ。


そんなハイテンションの俺は、宗介と中学校へと向かっていた。柚香はおじさんと一緒に来るということで、仕方なく むさ苦しい男2人で登校しているのだった。




「そう言えば、俺、妹さんに会ったことないよね? つか、名前は?」


桜井さくらい柚香。身長157cm、体重49kg、バスト・ウエスト・ヒップは上から……った!」




宗介が俺の頭を叩き、続く言葉を妨げた。そんなに柚香に興味がないってか!? いや、興味があっても俺は怒るぞ。




「いや、俺はそこまで聞いてないから。つか、そこまで知ってるとかストーカーかよ」




少し呆れたのか引いているのか、宗介は真顔で俺に言い放つ。何だよ、それだけ好きなんだよ、悪いか!


そんなやり取りをしている内に中学校へと到着した。学校から家までは15分程度で着く距離だ。話しているとあっという間にも感じる。




「クラス〜クラス〜♪ 柚香と同じかなぁ」




と鼻歌交じりに、下手くそなスキップしながら体育館へと足を運ぶ。体育館の入り口に貼られたクラス表を見る。




「…っと………あ、俺は1組だ。柚香は……あれ?」




同じクラスに名前がないぞ!?


何度も名前を確認するが、「桜井」の「さ」すら居なかった。




「俺も見つけた。4組か。香樹こうきと離れちまっ…たな、ってあれ? この桜井柚香って妹さんじゃね?」




隣から柚香の名前が出てきたので、反射的に目を向ける。




「どこだ!?」


「え、あ……4組、だな」




宗介の指差す所には確かに桜井柚香の文字があった。涙目で宗介を睨むと、後ろから知った声が聞こえた。




「あらあら、香樹とクラス離れちゃったね」


「柚香ぁ〜。…何でこいつが柚香と……」




振り返るとそこには制服姿の柚香と、スーツ姿のおじさんがいた。あまりに可愛い制服姿を視界に収めた俺は、全てのことがどうでもよく感じた。……いや、どうでもよくはねーけどさ。




「でも、みんなには内緒だし、丁度良かったかな?」




柚香の斜め後ろには義父さんがいる以外、周りには職員もちらほら。生徒も多くはいなかった。そんな義父さんに会釈し、話を続ける。




「そうだな。みんなには内緒だもんな。俺ら2人の秘密だもんな!」


「……なんかごめん。俺、どっか行くわ」




その場から立ち去ろうとしていた宗介の肩に手を置き、笑顔で止めてあげた。ステルス能力使って存在消してたんだろ? それとも何だ? 元々陰薄いってか??




「ひっ……い、いや〜聞くつもりはなかったんだけどね? いつも香樹が自慢するからさ……しかも、そんな目の前で秘密のこと喋られても、ねぇ?」


「そぉ〜す〜け〜くぅ〜ん」




問答無用とばかりに笑顔で迫る。きっと、漫画やアニメでは血管が浮き出たマークがデコ辺りに出ているだろう。それか背景に「ゴォォオオオッ」って文字が付いてるかだな。




「香樹、いいじゃん。3人の約束! クラスに知ってる人がいる方が安心だもんね」


「そぉ〜だよね〜」




宗介に向けていた笑顔とは別の、デレッデレの笑顔を柚香に向ける。そしてもう一度宗介の方を向くと、「助かった」という顔をしている宗介の肩を掴んだ。




「宗介、お前に柚香を任せたぞ。……柚香に何かあったら、ただじゃおかねぇかんな」




俺は今日イチで真剣な顔をした。もちろん、最後の一文は柚香に聞こえないように。




「お、お、ぉぅ。任せとけ」




よしよし、これで何かあれば心置きなく痛めつけてやる。……まぁ、柚香が駄目って言ったら止めるよ、絶対‥‥多分‥‥きっとね?


時間が迫っていることに気がついた柚香は、俺らに声をかける。




「あ、もうそろそろ時間じゃない? クラスに行こうよ」




どうやら父兄は体育館で待機らしい。おじさんへ別れを告げると、在校生の案内に従い、俺らは教室へと向かった。


中央階段を上がり、1年生のクラスがある3階へと辿り着く。この階段を挟んで左が1、2、3組、右が4、5組となっていた。




「じゃあ、私たちはこっちだから。またね、香樹」


「じゃ、じゃあな」




宗介も、柚香の隣で遠慮気味に手を振っている。涙目に見えるのは、俺が脅しすぎたからだろうか。

てゆうかさ……




「何で俺だけ違うんだよぉおおおお!!!」




俺の横を通り過ぎる同級生よ。廊下で叫んでいる俺を、変な目で見るのは止めてくれ。






































「だ、大丈夫?」


「……俺に、触れるな。悲しさのあまりお前を殴るかもしれねぇ」


「!?!?」

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