シスコンの兄ちゃんで何が悪い!?

ユキノシタ

1章 : 1学期

1話 : これが俺の可愛い×2妹だ。


俺、佐久元さくもと香樹こうきには大好きで仕方のない奴がいる。




「香樹、今日出かけるんじゃなかったの?」




そいつはリビングのソファーに寝転んだままの俺に、台所から顔を覗かせ言った。

妹の柚香ゆかだ。




「ん〜、もう出かけるよ」




体を起こしながら妹に答える。妹も台所から出てきて玄関まで着いてきた。




「じゃあさ、帰りに駅前のシュークリーム買ってきて! あそこの すっごく美味しいの」


「分かった。じゃ、行ってくる」




俺はそう返すと玄関へ行き、友人との待ち合わせ場所へと向かった。










柚香は、とても可愛くて大切な妹。そんな俺ら兄妹には誰も知らないオプションがある。


それは、父さんが違うこと。


母さんと父さんが結婚して、俺が生まれた。そしてすぐ父さんの不倫が発覚し、そのまま離婚。

俺の今の義母さんは、その不倫相手。でも、生まれてすぐの事だったから知らないし、その頃から育ててくれた義母さんには感謝もしてる。


離婚した方の母さんも再婚して子供を産んだ。それが柚香なのだ。だから兄妹と言っても父さんは違うし、苗字も違う。




「…何だかなぁ」




最初こそ特別で素敵なオプションだと思っていたのだが、最近は何だかそこまで素敵とも思えなくなった。

でも、柚香が可愛いのは変わらないし、柚香の義父さんが優しいのも変わらない。近所に住んでいる柚香がこうして俺の家に来れるのも、その優しい義父さんが居てこそだからな。ほんと、義父さんには心から感謝をしている。


柚香の母さん……もとい、俺の本当の母さんはと言うと、柚香を産んですぐに力尽きたらしい。生まれたばかりの子供を男が1人で育てるのは難しいからと、おじさん(柚香パパ)は実家に帰ったのだ。そして柚香は、ばあちゃんと3人で暮らしている。


だが困った事に、このばあちゃんは意地が悪い。おじさんの前ではニコニコしているが、裏では叩く蹴るのオンパレード。たまに俺の家に駆け込んできては、しこたま泣いた後、何事もなかったのように帰っていく。




「…はぁ」




もう少しくらい、俺の事も頼ってくれても良いのになぁ。


俺は無意識に溜め息を吐いていた。




「いやいや、待ち合わせ場所に着いて いきなり溜め息ですか。ふざけるなコノヤロー」


「あ? あぁ、うん、まぁな」




柚香を想っているうちに、いつの間にか待ち合わせ場所に着いていたようだ。着いて早々 溜め息を吐く俺に、待ち合わせをしていた友人の宗介そうすけはちょっと拗ねている。




「いや、だから答えになってないって……そんなテンション低いなら、今日は止めとく?」


「うん、そうしようかな?」


「そっか……え? いやいや、ここまで来て「よし帰ろう」とはならないからね!? 無理でもテンション上げてこーぜ!」




俺の心からの即答が、どうやら気に入らなかったらしい。全く、自分が言い出したんだろーが。


焦った宗介を横目に、俺は空を仰いだ。




「でもな、今、家に来てるんだよ」


「………あぁ、妹さんか。同い年だっけ?」




良き友人であり1番の親友でもある宗介は、俺たちの事を知る唯一の人物。また、その逆もあって、宗介の家事情もある程度聞いている。まぁ、家々深い事情の1つや2つあるもんだよなぁ。


そんなわけで。柚香の事を聞き返してくれた宗介に飛びつく勢いで反応する。




「おぅ! 俺が4月15日生まれで、妹が3月15日生まれなんだ! 奇跡だろ!? 同じ15日なんだよ! そして同い年! ん〜、早く中学校 始まらないかなぁ。そしたら毎日会えるのに〜」




宗介は自分から聞いた質問に後悔しているような顔を見せた。


俺に柚香を語らせたら止まんねぇよ? いや、止めようと思えば止めれるけど、止めてやんねぇよ?


5日後から始まる中学校生活に胸を躍らせ、俺のテンションは上がっていく。




「……うん、その話は結構聞いたから。それより、妹さんも彼氏とか出来てないのかな…って………ひっ」




隣で宗介が訳の分かんねぇことを言いだしたので、とりあえず笑顔で首を傾けてやった。















そんな宗介との遊びも終え、俺は家へと帰る。




「ただいま〜」


「あ、お帰り! 香樹、例の物は?」




玄関を開けるなり、笑顔で寄ってくるエプロン姿の柚香。実に可愛い。


ちなみに、今日はおじさんは出張、ばあちゃんは友達と旅行に行っているらしく、ウチに2泊することになっている。




「ほれ」




俺は頼まれていたシュークリームの入った箱を、エプロン姿の妹に差し出した。




「わぁ〜〜。ありがとう、お兄ちゃん」


「っ……」




柚香はそれを見ると、先ほどまでとは違う笑顔を見せた。


……こういう たまの不意打ちをどうにかしてほしい。

聞きました!? お兄ちゃんって!! 俺のこと、お兄ちゃんって!!! しかも何、この笑顔!! ちょぉぉおおお可愛いんですけど!?


おかげで余りの嬉しさに、力いっぱい抱擁したいのを全力で抑えるこの現状だ。


玄関で靴を脱ぎながら、俺は気持ちを落ち着かせる。たぶん、宗介が隣にいれば引くレベルに顔がヤバいと思う。




「今日も宗介と遊んだの?」


「おぅ」




柚香は妹と言っても、同い年。母さんは離婚してすぐ、柚香を授かったということだ。ほんと、どうしようもない両親だとつくづく思う。


俺らの名前は母さんが決めたらしく、どちらの名前にも “香” が含まれている。柚香と同じ漢字が使われているとか……ほんと自分の名前は絶対嫌いにはならない自信がある、というか自信しかない。


俺がそんなことを考えているとも知らない柚香は、受け取ったシュークリームに向けていた視線を俺に向ける。




「たまには女の子とかと遊びなよ。好きな人とかいないの?」


「え? そりゃあもちろん柚香かな」


「……中学では好きな人づくりを頑張らなきゃね」




俺の即答に呆れたようで、柚香は大きな溜め息を吐いた。何で皆、そんなに俺の即答に呆れるんだ?


失礼だなと思いながら、俺は柚香にも聞き返す。質問されるだけなんて、面白くねぇし?




「柚香は? 好きな人とか出来たの?」


「ふぇ!?」




ふぇ!?

…驚き方、可愛いなぁ……とか思ってる場合じゃない。何で顔赤くなってんの!?


俺はそんな真っ赤に染まった柚香の顔を見て、中々脱げない靴をそのままにフリーズしてしまう。




「わ、わ、私のことはいいの! お兄ちゃんは、そのシスコン直したほうがいいよ!!」




それだけ言い残すと、早々とリビングへ去っていく。俺はそんな柚香の後ろ姿を眺めることしか出来なかった。




「ま、まじかぁ……」




好きな人に好きな人がいれば……なんて願ったやつは今すぐ俺が成敗してくれるから名乗り出ろ。

























「っつか、この靴なんで脱げねぇんだ!? ……あ、チャックがあるやつだった。紐引っ張っても意味ねーじゃん」



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