11個目
京子
今日は待ちに待ったお茶会の日。友だちの優香となおさんとあんさんと4人が集まる。ここは猫カフェ兼ペットショップ。店長さんは猫好きだけどまた
「佐藤くんってあのユキチ隊の隊長さんでしょ?すごいね」
「そんなことないです。それより秋さんがいろいろ手伝ってくれるって」
「秋は好きなことやって歌ってるだけだよ」
「ふたりともいい彼氏さんがいるよね」
「あんちゃんも知ってるんだしさ、隊長ここに呼ぼうよ優香ちゃん!」
「いやですよ、私はなおさんの彼氏さんこそ見てみたいです!」
「あ、あいつはだめ、出てこないよ!ね、あんちゃん?」
「だね!ふーん、ついに彼氏になったんだ?」
「違う違う!それより!京ちゃんは?秋くんよく働いてくれるけど休みとか会えてる?」
「はい!」
秋ともいい感じだし、お茶会をしながら猫を眺めて撫でて、なんだか幸せな気分になる。おしゃれして会いたい人に会って話してそして笑ったり泣いたりして、あたりまえのことができるようになったなあ。涙がつうっと頬を伝って、イスの間をすり抜けていた猫に落ちる、嫌がって早足で逃げていく。
「あ、ごめんねタロちゃん」
「その子はコロちゃんですよ」
案内役のロボットが教えくれる、ロボットの名札には矢子とついていた。ありがとうやこさん、私がお礼をすると丁寧にお辞儀をする。去り際になおさんが聞いた。
「そういえば、やこも猫が好きなの?」
「はい、猫と鈴木店長が好きです!」
ガシャーンとガラスの割れる音がした。店長さんの慌てた声とかたづけの音がする。すぐさまやこさんもかたづけを手伝いに行く。ありゃわざと言ったな、となおさんが2人のの馴れ初めを話してくれる。生身の人間の方がいいに決まってる、と思っていたけどそういうのもありかもしれない。
〇〇〇
鈴木
俺の日記とはもう呼べなくなった本を売りに出し、そのお金でペットショップを始めた。そのころにユキチの乱というふざけた名前の世代交代があって、以降は商売も繁盛している。そして今年念願の猫カフェを開くことができた。好きなことをする難しさも好きな人をものにする難しさも学び、失恋を乗り越えた大人の男になったと思ったのに…なおさんは振った後も仲良くしてくれる。それはつらいんですよ、うれしいけどうれしいんだけど、のろけとか聞かされてもこっちにとっては苦行でしかない。そんな今の俺の癒しは『やこ』という名前をつけたロボットだ。施設でお世話になったロボットで実は連れ去ってしまったのだ。なおさんに相談したら駆け落ちと言われた。馴れ初めは退院後もう一度施設を訪れたところからはじまる。正直にいうとロボットのことは少し記憶から薄れていた。噂になっていたユキチ隊に興味があって集会に参加しようと向かったのだ。入口で見知ったロボットが声をかけてきた。思い出が鮮明になる、色をつけて蘇る。
「あ、鈴木さんお久しぶりです、元気にしていましたか?」
「うん、そっちは?」
「最近はみんなのケンカも多くてちょっと大変です。もしかしてユキチ隊を見にいらしたんですか?」
「そう、だいぶ噂になってるからね。外の人は施設の奴らが革命を起こすって騒いでるよ」
「そうですか…鈴木さん、残念ですがあなたを中へお入れすることはできません。一度退院された方は面会もできない決まりになっていますのでお引き取りください」
俺は驚いて顔をのぞき込む。
「泣いてるの?」
「何言ってるんですか、泣けるわけないですよ」
「涙が出なくても泣いてるだろ、何かあったのか、もしかしていじめか?」
「ロボットにはないです。あなたは変わった人ですね。といっても私はここの人たちしか知らないんですが。…私は責任者の命を受けてこの施設に勤めています。たくさんの方々が入院して退院されてかつての友人や大切な人に会いに行かれます。ですがこの施設で大切な方ができた方は一方が退院しても相方が退院するまで会えないんです、ここは監獄です」
「そんな、そんなことはない、ここはすごくいいところだよ。自分で考える時間と安らぎをくれる」
「そんなのは建前です。中にはなかなか治療がうまくいかない方もいらっしゃいます、そんなとき不安になります。ここにいるのが悪いのではないか、外に行くべきなのではないか、ここで面会者を拒絶していいのか、そんな私の不安が伝わってしまうのではないかと」
俺はロボットのいうことがよくわかった。あのとき俺は一年も外に出ていなくても何の疑問も持たなかった。それは異常だと思う。
「君の気持ちもわかるよ、だけど俺はとても助かった。君たちのおかげで変われたんだ、だからそんなに思いつめないで。そうだ、ちょっと俺と一緒に街まで行こう。俺の本が本屋に出てるんだ、準備中で中は空だけどペットショップも作ったんだ、見にこないか?」
彼女はみるみる悲しい顔になって、唇が震えて、声もふにゃふにゃになった。
「私もここから出られません、私は施設の管理者です。あなたはもう対象外なのであなたとおともすることはできません」
俺は何も言わずに彼女の手を引っ張って走った、最初は引っ張られていた彼女も一緒に走ってくれた。あの公園まで来たとき彼女は嬉しそうにブランコに乗りながら責任者に連絡をとっていた。
「私はもう施設には戻りません、私も退院しました!彼と暮らします!」
まあ駆け落ちというか彼女が先に親に電話して同居を決めちゃったんだけど。俺は男らしくて女の子らしいロボットにすっかり惚れ込んでしまったというわけだ。
とある日彼女が壊れてしまう夢を見た。なおさんの好きな人、あの施設の責任者、元管理人、チャージャーとロボットの開発者、彼を探しても見つからなくて俺は彼を恨むんだ、何でこんなものを作ったんだ、悲しくて辛くて泣きながら目を覚まして彼女のところへ行った。ロボットが人間と違うところは眠らない食べないから出さないお風呂に入らない、ところ。すでに夜の充電を終えた彼女が台所にいる。
「やこ、お前が壊れる夢見た、怖かった。壊れたらどうしたらいいんだ?」
「壊れたら?そしたら電気屋さんに行きます、家電といっしょだそうです、説明書を肌身離さず持つよう開発者より命を受けています」
まさかの電気屋頼みだった、お手軽なんだなすごい仕組みだ、俺が感動していると面白そうに笑っていた。電気屋さんもロボットの進化を受けて進化しているそうですよ?と。開発者からの命令は今もあるのか聞いてみた。
「好きにしろ、好きなことがないなら同じところで働け、危ないことはするな、ですね」
「ざっくりしてるな」
「いつもそうですよ。最近、動くなと言われました。しばらくじっとしていたんですけどお湯沸かしてたの忘れてて、止めに行っちゃいました」
「それって…」
俺の恋人はもう命は受けない。
〇〇〇
あん
あんちゃん。そう呼ぶ声が心地いい。あと5分くらいいいじゃない、せっかくいい気持ちで寝てるんだし起こさないでよ、なお。
「あんちゃん!いい加減に起きて、もー!」
がくがくとゆらされて目を開ける。なおの顔が見える。高校のときからずっと、眠たい目で見るなおの顔が好きだ、なおのことが好きだ。お兄ちゃんの友達のお兄さんにはなぜか相談できた。ゆっくりと聞いてくれて悩んで辛かったねと好きにしていいんだと言ってくれた。私は告白は一生しないと決めた。なおがこの人を好きだというのが伝わってくるから。だからお兄さんがなおと付き合ってくれてうれしい。私となおを助けてくれた人、だいぶ変わっている人だけどなおを幸せにしてくれるだろう。今なおと二人暮らしでなおと同じく新政府の秘書をしている。私の学歴は高校中退で止まっている、勉強もできる方じゃなかったし進路なんて決めていなかった。だから仕事だって全然よくわからない。最近はモニターに新政府を広める映像を流すことになって、まず私にインタビューしたいとお願いされた。なおが大反対したけど私は出たくて仕方ない。子どもなんだからなんて言われるけど同い年よ、と軽く返しておく。
「あんさん、まずチャージャーのことはどう思っていますか?」
「私はとてもいいものだと思います。開発者の方はもともと知り合いで私自身は騙されたとは思っていません」
「そうなんですね、次に研究施設によって作られた進化の薬液についてはどう思われますか?ご自分が実験の対象になったという噂もありますが」
「本当です。実験中の記憶は曖昧ですが睡眠中の私に対していろんな刺激を試したそうです。今や進化は悪物と報道されてますが以前は違います。私からしたら魔法のようです、治療してうまく体をコントロールしている方もいます。いいものとはいえませんが、けして悪いだけのものではなかったと思います」
彼は私に少し強い口調で投げかけた。
「あなたはどうしてそんなに彼らを許せるんですか、失った年月は何ものにも変えられないんですよ?僕だったら怒ります!」
「確かに怒っていた時期もあります、泣いていた時期もあります。でも変わっていくんです。思い返してみても高校も卒業したかったし、友だちに会ってもまるで変わっていて、まるでタイムスリップ。私だけ置いてけぼりにされているみたいでした。だけど大丈夫です、私も変わっていけます、もう眠っているだけの私じゃないんです」
言い終わって、彼が泣いていることに気づいた。番組を作っている人が続けると言うと泣きながら彼は話し出した。
「僕はあなたのことをなんとかわいそうなんだと思っていました。僕の家族も被害者で僕は1人で進化せずにずっと変わっていく世界を見ていました。変わることが怖くてしかたなかった、知らない世界、知らない人になっていくのが怖くて、いつしか僕は閉じこもるようになりました。だけどあなたが目覚めたニュースを聞いて僕も頑張れたんです。ありがとうございます。本日は本当にありがとうございました!!」
番組のタイトルが『あなたのチャージャーはなんですか?』でよけいになおが嫌がっていた。
「平凡すぎ、もっといいのつけられないの?」
「なおだったら何にするの?」
「うーん、もし小説なら『私の進化論』かな」
「えーなんか堅苦しいー」
「そ、そうかな?じゃああんちゃんは?」
「なんだろうねー『かわっていくものたち』とか?」
〇〇〇
なお
私は小説のタイトルを編集して変更する。そんなに変かな?シンプルが一番だと思うけど。最近やっと世界も仕事も落ち着いて書けるようになった大好きなファンタジー。彼は犬の獣、戦ううちに進化していくがそのスピードと威力にしだいに悩んでいく、ついに1人だけ最強になってしまった彼は孤独に病んでいく。そんなお話。あいつとネタを考えたりちょっと手直してもらったりしている。タイトルも相談してみよう。
「マイエボリューションは?」
「やだ」
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