第23話

「よし、分かった」

変わらず緑の生い茂る平原にて、一通り材料になりそうな物の名前とその特徴が記されたメモを見下ろし、ヒイロは一つ息をついた。

「あなた達の一族ってすごいのね、こんなものまで作れるなんて」

スニェジカは、ヒイロの手に握られたペンと、少し大きめのメモ帳を不思議そうに見つめていた。メモ帳に整然と並べられた文字は、ヒイロの丁寧な性格を表すものだった。

「ペンは難しいかもしれないけれど、紙とインクなら植物や鉱物から作れるから、後で作り方を教えてあげるよ」

ぺらりと乾いた音が鳴った。再び白い顔を覗かせたメモ帳に、今度は何を書いているのだろうか、と一同が視線を向ける。


「核があるのはこの辺りだったよね?」

自分の背の、ちょうど中心あたりに片手を回してとんとんと叩きながら、ヒイロはエルベとスニェジカに問う。肯定の返事が返る。

「核を囲うように、薄く気付かれないくらいの鎧を作る」

二層の構造にして、外側には相手が攻撃を仕掛けてきた際に動きを止められるよう、即効性の痺れ薬を仕込む。この層は衣服に見える。そして、内側、つまりはエルベの体と接する側には、薄く軽いが、硬い金属を仕込む。もし外側で止められなければ、純粋に力で勝負するしかない。または、毒などを塗りこまれる場合でも、金属があればエルベの体に直接触れはしないだろう。彼らは金属については疎いので、主にそれを作るのがヒイロの仕事になる。

「なるほど・・・・・・」

「あ、ねえ。あたし、叔父さんが誰かとこっそり話してるの聞いちゃったんだけど。誰と話していたかは分からなかったけれど、明後日に決行するつもりだって言ってたわ」

夜がないこの星から、明後日という時間になるまでがヒトとオーデルで違うであろうことは明らかだったが、それでも時間はない。


「何が何でも、間に合わせるよ」

難しい顔をしたヒイロを安心させようと、サヨが、そっと小さく白い手を、ヒイロの手に重ねた。

「ヒイロ、だいじょうぶ。サヨもてつだう」

「そうと決まればまずは材料収集だね。君が安心して取り掛かれるように、すぐに取ってくるよ」

焦るヒイロを落ち着かせるかのように、エルベもにっこりと笑う。


「さあ、それじゃあ早速行きましょう!兄さんのことは絶対に守るんだから!」

四人の決意が、スニェジカの号令に触れて更に膨らんだ。命のかかった重大なことでも、四人の表情は明るい。


しかし事が彼らの表情と同じように運ぶとは言えない事を、知っている者がいた。

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