第19話

再び、ヒイロ達に視点を戻そう。そう、彼らは楽しく追いかけっこをして、その後のことだ。

ヒイロは今までに感じなかった、違和感を思い出した。冷えきっていた本能が急速に加速する。その違和感、つまりは空腹を、彼の体は訴えていたのだ。

「あの、エルベ」

ヒイロが控えめに手を上げながら言う。

「君たちは、その、食事で栄養を取ったりするのかな」

するとさすが知にも優れた統治者の家系、ヒイロが皆まで言わずともヒイロの言いたいことを察してみせた。

「ああ、お腹が空いたのかい?・・・・・・そうだね、食べることは食べるけど、君たちの口に合うかな。あ、サヨもお腹減ってるよね?」

一人ぺたりと座り込むサヨは曖昧な声を出しながら首を傾けた。彼女は本当によくその視界を傾けるものだ。

「それじゃあとりあえず持ってこれるだけ持ってきてみるよ。ついでに協力者も紹介するから、ここで食事にしよう」

エルベはそう、ふわりと優しく笑った。と思うと、すぐさま自慢の足で駆けて行く。ヒイロはその背中を見送りながら、考え事をしていた。

「この星には、夜がないのか」

「よる?」

昼と夜の変化は、人類の故郷である地球では、太陽と地軸の傾いた地球の自転のおかげで生まれるものであったが、現在のヒトの技術の発達によって、近くに太陽となりえる存在がない星でも太陽の恩恵を受けられるよう、仮初の太陽が生み出されるようになった。

人類は、適応という能力を捨て、技術に頼る道を選んだ。

それが間違いかどうかは分からない。誰も適応を選んだ場合の未来を経験したことなどないのだから。

「サヨは、夜も知らないのか?」

「うん」

サヨの記憶喪失は、そんな人類の常識も忘れてしまうようなものなのか。ヒイロにはなんだかサヨのこれが、記憶喪失などという簡単な言葉では表せないもののような気がしてならなかった。

「あとで教えてあげるよ」

何か背筋をつうっとなぞるそれから目を背けるように、ヒイロはサヨの頭を撫でた。まるでサヨは猫のように目を細め、気持ちよさそうにしている。すると、早くも二つの影が戻ってきた。


「やあ、お待たせ」

「随分早かったじゃないか。待ってなんてないよ」

ヒイロはその早さで籠いっぱいの食料を集めてきたくせに汗ひとつかいていないエルベにちょっとした言葉のちょっかいをかけようとしたが、それは意外な人物に遮られた。


「あなた達が兄さんの協力者?」

利発そうな声。エルベによく似た、人当たりの良さそうな少女が立っていた。

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