第18話

「リンデン」

レイシアが呼ぶ。レイシアはさほど声が大きいわけでもないのにその声が届いたのは何故か、それはレイシアが依然手に持っていたままの杖がうっすらと輝いていたことからも簡単に推測できた。星の残骸、熱い星、小さな星、星になれなかった星・・・・・・様々なものたちが行き交う地平線の向こうから、すぐにリンデンは彼の足を使い現れた。同じく輝きの残滓を抱く杖と共に。

「ようやく終わったか」

「ハイ」

女の用事はなげーんだよなぁ、と愚痴を零しながらリンデンは頭を搔く。


「ああそうデス、リンデン」

「あ?」

「貴方もここに魔法をかけてあげてはいかがデショウカ」

そういえばリンデンは私たちに対する態度と比べ、レイシアには少しきつく当たっているのだな、とアウィーナはふと考えた。レイシアに対して、リンデンは我々とは別の何かを感じているのかもしれない。

「なんだこれ」

「魔法を記録できる装置デス」

「・・・・・・ああ、そういう事か」

リンデンは何か納得したような顔をして、アウィーナのもつ袋から緑色の石を2つ取り出して、親しい仲の者同士が頭をぶつけるように、こつん、と石と杖を触れさせた。

金色の杖の先にあるのは、緑色の丸い玉だ。オーブ、という表現が、適切かもしれない。その緑色のオーブから、光の芽が伸びて、石をすっかり覆う。次に石がその輝きを見せたとき、石の内面には不思議な文字が浮かび上がっていた。

「・・・・・・一体、どんな魔法を」

「おっと、お楽しみってのはできるだけ後までとっておくもんだぜ?」

アウィーナが口に出しかけた言葉を、人差し指で遮る。

「まあ、見ての通り、お前には不必要でお前の連れには必要な事だよ。さ、そろそろ行くぞ」

ふたつの石をアウィーナの袋の中へと返すと、リンデンはふわりと足元を地面から離した。見れば既にその細い翼は力強く羽ばたいている。置いていかれまいとアウィーナも羽ばたこうとすると、それをレイシアが止める。


「アウィーナさん」

レイシアが杖を向ける。気の所為か、まわりの星々が輝きを増したように思えた。

「貴女に、御神のご加護があらんことを」

不思議な事に、アウィーナには彼女の本当の姿が自分へと微笑みかけているような感覚を覚えた。その瞳は、アウィーナへと渡された黄色の石と同じく透き通っている。何故だかアウィーナは、今度はその輝きに嫌な思いを持つ事は無かったから、彼女もどこか清々しい表情で、杖を向け返した。

「貴女に、御神の祝福があらんことを」

その言葉が宇宙へ溶けたとき、青と黄色の波紋が、どこまでも広がっていった。

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