第15話
「星図が欲しいという話でしたヨネ、聞こえていましたヨ」
「なら話ははえーな」
黄色の天使は眼鏡を押し上げた。その動作に伴い、白衣が少し前進した。ちらっと、腰元のたまごも目に入る。歯車と不思議な模様に彩られたたまご。シトリンのような黄色の宝石が散りばめられているのが、なんとか視認できる。
「ツイテキテクダサイ」
よいしょ、と方向転換する。ドレスよりも長い白衣に手こずっているようだ。なぜこんなにもサイズ違いの白衣を、わざわざ使っているのか。
「こちらはワタシの助手のペーター君2世です」
ぽんぽんと叩かれたペーター君2世はまるで挨拶するかのように唸る。勿論ただ機械的な処理をしているだけで、心があるわけではない。丸椅子に天使がひょいと座る。そのまま指先で机型の画面を叩き始めた。
「彼は非常に優秀なのデス」
空中に、ウィン、と音を立てて立体映像が投影される。これが星図だろうか?
「んしょ」
名も知らぬ小さな天使は、危なっかしくどこからか椅子を運び出してきた。大分埃をかぶっている。それを機械の前に置いて、天使は一息つく。彼女は白衣の中から少し厚みのある布切れを取り出すと、さっと椅子の表面を拭いた。
「オスワリクダサイ」
言われるがままにその黄色の革の上に体重をかける。アウィーナが座るのを見届けると、彼女は椅子を通り過ぎ、機械の右の方の前に立って、何かをはめ込む。パチリという音は、三度聞こえた。再びアウィーナの前を通り過ぎた天使は、アウィーナの横に元から置いてあった、彼女愛用の緑の革の椅子に腰掛けた。
「おい、俺の分は!?」
「残念ですがアリマセン」
けっ、と眉を顰めるリンデンに、アウィーナは自分の椅子を譲ろうと腰を浮かした。しかしリンデンは彼女を一瞥すると、俺はあっちでしたいことがあるから、とどこかへ歩いて行ってしまった。
「ふぅ」
息を吹くと共に、小さな天使は眼鏡を外す。するとなんとまぁ、瞳は眩しいほどにきらきら、いきいきとしていて、アウィーナは息を呑む。彼女がもっと背が高く顔つきが大人びていれば、さぞや美人であっただろうに。しかし、その考えは少しの後に予想外の方向から砕かれることになるのである。
「まだ少し時間がかかるので待っていてくだサイ」
あぁ、と天使がアウィーナに顔を向けた。
「そういえばまだ名乗っていませんでしたネ、ワタシはレイシアと言いマス」
ぺこりと頭を下げるレイシアの、垂れたボサボサの髪の隙間から覗く光に、アウィーナは再び圧倒された。
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