第12話
「ああ、そうか。これは僕ら人間流の挨拶だよ。よろしくって意味で、お互いの手を握るんだ。握手って言う」
エルベが一度頷く。すっと出された手は、迷うことなくヒイロの手を握った。エルベの手は、少し、ひんやりとしていた。人間とは体温が違うのだろう。
「サヨも、アクシュしよう」
エルベが片言の様に言った。サヨはとてとてとエルベに近寄り、そのまま両手でエルベの右手を握った。
「よろしく」
「ん」
「さて、ちょっと出かけるぜ。しばらく戻らないと思うから、お前のおふくろによろしく言っといてくれ、エルベ」
「はいはい」
今まで三人を見守り静かに微笑んでいたリンデンは区切りを見てそう告げた。リンデンがその翼で遠く空へ消えるまで、今度は三人がリンデンを見守る。彼がすっかり見えなくなると、三人は辺り一面緑のそこに座りこみ、作戦会議に乗り出した。
「そもそも、お前の叔父さんは何をやってるんだ?」
「何もしてないさ。ただ家でふんぞり返っているだけ。してるのは、みんなのカネに手をつけたり、罪のない一族のやつらに手を上げたり」
「なるほど・・・・・・大体聞いていたことと同じか」
「ねえ、エルベ」
サヨが首をかしげている。ヒイロを射抜いたその不思議な瞳は、今度はエルベに狙いを定めていた。
「エルベ、ヒイロとちがうしゅるい。だからきっとできることもちがう。はっきりさせておいたほうがいい。ちがう?」
「いいや、違わないな。確かにそれは大切だ。さっきだって君達の技術には驚かされたしね」
サヨは自分の考えが正しいと知ると満足そうに口角をあげた。エルベは思わずサヨにつられてにっこりとする。
「きっと君たちの方が技術とそれを考えることには長けている。まぁ、ここのものが君たちに活用できるかということもあるけれど」
「そうだね。それから・・・・・・多分、勘なんだけどさ、身体能力とか、視力とか、聴力とか。そういうのは、君達の方が優れているような気がする。」
「ためしに、ここ、はしってみればいい」
サヨが、ぽんぽんと地面を叩いた。草がぐしゃりぐしゃりと音を立てる。ヒイロとエルベは顔を見合わせて、最初はお互いきょとんとしていたが、一瞬遅れていい笑顔になり、立ち上がった。
「やろうか」
「うん」
横にぴったり同じように並ぶ。身長差が際立って、ヒイロは始める前からちょっと惨めな気持ちになった。サヨが一歩引いたところで、一度手を叩く。駆け出しは全く同じように走っていたけれど、すぐに二人の間には大きな差がついた。
「ちょっ・・・・・・エルベ、速すぎるって!」
「そうかい?」
追いつく見込みがあるわけでもないが、ヒイロは必死に走り続けたし、エルベは一周回っていつの間にかヒイロの隣にいた。運動能力の差なんて既に証明されたけど、そんなことはどうでも良かった。
「ヒイロ!」
「なに?!」
「楽しいね!」
息を切りながら思った。友達って、こういうものなのだろうか。
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