第11話

「リンデン様!」

少年らしきなにかが駆け寄ってくる。リンデンは無邪気な笑顔を浮かべる彼に応え同じく無邪気な笑みを浮かべた。


「よお、元気にしてたか?エルベ」

エルベと呼ばれたその生き物は、なるほど確かに人間と殆ど同じ体格だった。ひとつ違うところを上げるとすれば、それは耳の先が尖り、岩のようにごつごつとした薄鈍に輝いていたこと、そこから植物らしき緑が見え隠れしていたことであった。


「もちろん、この通りピンピンしてますよ」

「そーかそーか。でな、今日は大事なことがあって来たんだ、よく聞け」


話は宇宙船の中、つい先程まで遡る。ポーレチケの歴史と、リンデンの頼みを聞いたヒイロ達。彼らは結局その頼みを引き受けることにした。そこでリンデンに「そう来なくっちゃな!」と散々振り回されたのち、とりあえず次の神子に会ってほしいと、彼らは惑星ポーレチケに着陸することとなった。


「大事な話ですか」

「ああ、協力者のお出ましだよ。モラヴァにぎゃふんと言わせてやるためのな」

リンデンが片手に持った杖を振り回すと、ヒイロ達の乗った宇宙船はゆっくりとその辺に降りてゆく。遠目には見難かったエルベの様々なものがはっきりと見えるようになった。当のエルベは、巨大ななにかの塊が降りてくることにただただポカンと口を開けるしかなかった。


「異星のやつだよ、どうだ?驚いただろ?」

「・・・・・・ええ、とても」

「まあ、異星のやつらだなんてバレちまうと困るからこいつらはこの場所に匿ってもらう事になるだろうな、その分きちんと働くだろうからまあ、安心しろ」

ヒイロ達がゆっくりと地に足をつける。靴の裏を柔らかい木の芽がくすぐったのが分かった。そのまま、リンデンたち二人の元へ駆け寄る。草木がハミングするかのようにざわめいていた。

「君たちが協力者かい?ボクはエルベ。よろしくね」

「僕はヒイロ。こっちはサヨ。それから・・・・・・あれ?」

ヒイロは違和感に気が付いた。アウィーナが、いつの間にかいなくなっている。

「ん、アウィーナ、これ、ヒイロにって」

小さな紙を、サヨが人差し指と親指を使って支えていた。受け取って読んでみる。書かれていたのは知らない文字であったが、何故かその内容はすらすらと頭に入っていった。

『私はこの星の生命へは干渉を許されていません。ですから私はしばらく別行動させていただきます。もしあなたがたが危険な時には戻ってきます』

話自体を受けてきたのは彼女なのに、少し勝手な気もするが、そこは天使だからという制限もあるので仕方がない。ヒイロは出そうになったため息をぐっと堪え、再びエルベに向き直った。

「こちらこそよろしく、エルベ」

ヒイロはそれがさも当たり前であるかのように手を差し出す。しかしエルベはそれを見て、きょとんとして首を傾げた。


そう、ここは人間の星ではないのだ。ここでは、ヒイロの常識は通じない。

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