第10話

オーデルの神子の一族は、その後何の問題も無く統治を行っていった。それは人間達から見れば奇跡と呼べるかもしれないし、そもそもある一族の統治に異を唱える者もいただろう。しかし、オーデルの場合は、人間より更に一族の生活のうち宗教が占める範囲が広まり、リンデンの言葉を直接聞いたこと、そもそも宗教を伝えた一族であることからオーデル達にとっては神と同等とも言える存在になっていた。リンデンは、その後も御神からの命により、神子の一族に"神託"紛いの助言をすることになる。


「ああ、天使がなんで神子の一族の祖の前に姿を現したかって質問は無しな。そうは言われても俺は御神に命じられたことをやってたってだけで御神の意思は全くもって知らねぇ、そういう方法がこいつらには合ってると御神が判断してるんじゃねぇか、って推測しかできねぇよ」


その言葉を挟み、再びポーレチケの物語は続く。


しかし、最近になって初めて神子の一族に問題が起きた。かつてオーデルの勢力を二分していた知の頭と武の頭は一つにまとまった。それが一つの血にまとまったところで、更に勢力を分ける者が現れるのである。

それまで、知の頭によるものか、奉仕の精神に似たものを持って暮らしてきた神子の一族に、「野心」の萌芽が芽生えるのである。それはたった一人の男の心の中に。


「次の神子にするつもりのやつの叔父・・・・・・今の神子の弟だな。そいつが次の神子を狙ってる」

今までの語りとは一転し、リンデンは随分と簡潔に言ってのけた。


「お前らに、次の神子を手伝って、そいつと、そいつの腹心。奴らを下手に身動き取れねぇ状況にしてほしいんだよ」


星の天使は、自分の星の住民達の生命の営みに、直接的に介入することは難しい。リンデンでさえ助言することが精一杯である。その助言でさえも、全てを指示してしまえばその生命を支配していることに等しいので、それも許されない。あくまで住民が自分たちで考え、行動することが重要なのである。


「だから俺は手を出せねぇ。かと言って奴らを放っておけば多分、この星は御神の意向に添えなくなる。したら住民は最悪綺麗に消えちまう」


だから頼む。お前らが自分で考えた「行動」で、あいつを助けてやってくれ。

天使であるリンデンが、自らより級の低い存在であるヒイロに深々と頭を下げた。それは心から星を考え、自らの矜持などちっとも気にしていないからこそできる行動である。


「その、奴らっていうのは・・・・・・具体的に何をしようとしてるんですか」


簡単だよ。まずは次の神子を暗殺。自分たちが次の神子となり、務めはせずにふんぞり返って、逆らう住民は皆殺し。


ヒイロはリンデンの言葉に、あの赤い少女天使の表情にも似た、自らの体内を循環する呼吸の冷たさを感じた。

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