第9話
「よーお、お邪魔するぜ」
知らない声だった。男だ。ヒイロが慌ててドアの方を見ると、随分と薄着の男がキョロキョロと船内を見回していた。
「なんだこりゃ。よく分かんねぇのが沢山あるなぁ、俺らの守ってる種族ってのはいつの間にこんな知恵を身につけてたんだな」
「・・・・・・すみません、ヒイロさん。驚きましたよね?」
アウィーナの声が遅れて聞こえてきた。図星だ。ヒイロは正直、アウィーナの存在を確認するまでこの不審者にどう対応するべきかと悩んでいた。
アウィーナは星の天使だ。きっと戦うことも出来る。サヨにも、正体は分からないが不思議な力が備わっている。いつ発動するか分からないあたりは、あてにならないとも言えなくもないが。しかし、ヒイロは、そのあてにならないものすらない。故に、ヒイロとサヨが二人しかいない場合、不審者をどうにか出来る確率は非常に低い。そういう意味で、ヒイロの杞憂はあって当然の物ではあった。しかし、よく見たらこの男には白い羽があるではないか。ヒイロは一人、そっと安堵の溜息を漏らした。
「んで、お前らだよな?星図が必要なのはよ。・・・・・・えっと、ヒイロ?と、そっちのお嬢ちゃんは」
「サヨはサヨ」
「おう、サヨか。俺はリンデンってんだ。よろしくな」
立ち話もなんだし、とヒイロがリンデンを椅子に座らせると、リンデンは左足を右足の上にして組み、再び話し始めた。
「お前らは運がいい。この近くに丁度そういうのに長けてる奴がいるから、そいつに頼んで星図を貰ってきてやる」
運がいい、確かに、目覚めてから運が良かったことなんて、サヨとアウィーナ、それから赤い少女天使とあの"かみさま"に出会ったことぐらいしかなかったな、とヒイロは思考を巡らせる。
「たーだーし!一つ俺からも頼みてぇことがあんだ。お前らだから出来ることだよ」
「サヨたちにしか、できない」
「そーだ。いいか?よーく聞けよ?」
そうしてリンデンは、自らが見守る星の事を語りだした。
惑星ポーレチケ。
惑星、というのは本来ならば太陽の周りを回る球形の天体のことを指すが、ヒトは宇宙進出の際に惑星の定義を変えた。話すと長くなりそうなので、この定義というやつについてはまた後で解説することにしよう。
「この星にはオーデルっつー種族が住んでる。見た目だけだとまぁ、お前達とさほど変わりはねーな。んで、文化やらなんやらが芽生え、当然信仰の対象・・・・・・つまりは宗教ってのも当然現れるんだが」
それは、はるか昔の話。
オーデルの一族には、当時二人の頭がいた。片方の頭は戦好きで、もう片方は非常に優れた頭を持っていた。後者の頭は、やがてその知能から縋るものとなる宗教を生み出し、戦に心奪われていた側のオーデル達は次々と宗教にその感情を救われていった。『よく分からないこと』を、『神のせい』と出来るようになったからである。同時に宗教の伝道師となった知の頭は神と等しく信仰の対象となった。しかしそれを快く思わなかった武の頭は、知の頭を殺めようとする。
リンデンは、近くの"かみさま"を通して、御神からの命を聞いた。
『姿を表してでも良いから、知の頭を守るように』
そこでリンデンは、知の頭の前に現れ、知の頭に加護を授ける。そして武の頭には、いつか知の頭と血縁を結び、知能、武術が共に優れた子孫を残すように提案した。武の頭はなんとこれを大人しく受け入れ、オーデルには優れた統治者の一族、『神子』が誕生する。
「さぁ、本題はここからだぜ」
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