第8話

さて。

落下していたアウィーナは、ある一瞬からパラシュートを開いたかのように突然減速を始めた。それは、彼女の背中に生えた真っ白な翼が大きな音を立てて広がったせいであった。減速の末に静止したアウィーナは、ゆっくりと体を起こし、宇宙の一点に静止する。やはりこの静止ということも、アウィーナが星の天使であるからこそ為せる所業であった。

瞳をゆっくりと閉じ、一つ息をつく。集中、集中。やがて、暗闇の中には緑色の煌めきが、きらり、きらり、とまたたきはじめる。最初は長い間隔を開けて点滅していたその緑色の光は、次第に間隔が短くなり、やがてその光を途切れさせることもしなくなった。

星の天使には、それらを直接繋げるネットワークなんかがある訳ではない。だから、全ての天使を把握している天使はいない。星の天使全てを認識しているのは、おそらく"御神"しかいないだろう。しかし、最初から知り合いではないというだけで、それらしき反応を感じることは、意識すれば可能なことなのである。


アウィーナは自らの杖を握る左手に、さらに右手を重ねる。あの星の天使に届くように。アウィーナの杖先には、青く輝く石が、祈りを増幅させるかのようにきらきらと光の帯を作り出していた。


「------・・・・・・」

祈りが最大限に引き出された瞬間を見計らい、アウィーナは目を見開き言葉を唱えた。それは、星々の住民には理解できない言語。古より御神とその遣い達が操ってきた、言葉の源流。これならば、相手側に確実に意志が届く。アウィーナはその数秒後、星の反対側で緑の煌めきがチカリと返事をするように輝いたのを見た。


「おいおい、一体なんだってんだよ、いきなりこんなところに見ない天使がいる上に、俺をお呼びだなんてよ」

それは、褐色の肌の眩い、男の天使だった。上着は緑色のチョッキのみ。下はダボついた、くるぶしまである白いズボンを着ていて、腰元には、アウィーナと同じように瓶が下がっている。この星の天使だ。緑色の煌めきの正体は、彼の持つ杖のその緑の装飾だろう。

「初めまして。私はアウィーナと申します」

「おう、俺はリンデン」

「私は訳あって、この知らない星域に迷い込んでしまいました。そこで、このあたりの星域の地図をいただきたいのです」

「ほー、あの乗り物はお前の連れが乗ってんのか」

リンデンは額に手を当て目を凝らして宇宙船を見ているような素振りをする。

「いいぜ、俺はお前らのこと全く知らない。けど力を貸してやろうじゃねぇか」

「・・・・・・そう思うのなら、何故、協力しようと?」

んなの簡単だ。この星の住民じゃないお前らに頼みたいことがあるからだよ。リンデンは言った。

どうしてこうも私は条件ばかり突きつけられるのか。アウィーナは内心困った顔をしていた。しかし頼み事というのは相手の時間と力を消費してもらうことだから、対価があるのも仕方はないことである。アウィーナは気持ちを切り替え、宇宙船で待つヒイロとサヨにこの事を伝えに行く事にした。

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