第6話
「わかりました」
アウィーナが静かに顔を上げた。
「預かりましょう」
「本当にいいの?」
その答えに、赤の少女天使が問いかける。少女天使も、アウィーナも、表情一つ動かない。
「ええ。御神の命ずる事ですから、私がやらなければならない理由があるのでしょう。それに、私のした事を全てご存知のはず。その上で、この条件を提示された。これに背くことは即ちその慈愛を拒否するに等しきこと」
「うん、そうだね。それがいいよ」
青年の「かみさま」はその優しそうな顔を、一度緩く上下させた。そうして、その長い袖から見え隠れするたまごを、はい、と手渡す。アウィーナがその手にたまごを受け取ったのを見て、「かみさま」は、再びうん、と頷いた。
「じゃあ僕はそろそろ戻るよ」
「うん!ありがとー!またねー!」
「かみさま」は後ろ向きでも優しかった。不思議なことに、振り返ってたった数歩で彼の姿は見えなくなった。一歩歩むごとに、彼の姿は水彩の絵の具のように薄まっていったのだ。少女天使が右手をぶんぶんと大きく振り続ける。と、思ったら。
「君達も早く別の場所に行ってね?ここにはもうすぐ新しい生命が生まれるんだから」
毒のように、じわじわと恐怖が侵食する、そんな声音だった。それはきっと、彼女の「星の天使」という役目に生まれた本能から出た言葉だ。瞳の奥を覗き込めばたちまち吸い込まれてしまうような、そんな気がして、ヒイロはすっと目を伏せた。
「あの・・・・・・」
「話は後です。力を使いますから動かないでください」
少女天使が何処かに行った。それと同時にアウィーナはヒイロの元へ近付き、青い宝石がちらちらと見える杖先を向けた。青白い光がぽうっと燈ると、瞬きするひまもなくヒイロの目に見える傷が癒えていく。身体の内側で実はずっと続いていた痛みも、ピタリと止んだわけではないけれど消えていくのが分かった。
「どうです?」
「あ、多分・・・・・・大丈夫です」
「そうですか。いくら治ったからとはいえあれだけの怪我をしていたのですから急激に動くことは暫く控えてください」
今度は杖先はヒイロの宇宙船へと向かった。同じように青白い光が宇宙船も直してしまうと、サヨがヒイロの手をとって、ゆっくりと立ち上がるように促す。
「ヒイロ、いこう」
「本当に、サヨはついてくる気なの?」
「ヒイロについてけば、わたしのこともなにかわかる」
今度は一切曖昧なところのない、言い切りの言葉だった。サヨはぴょんぴょんと子供のように跳ね、宇宙船を指さしながらヒイロを引っ張る。
「地球へ、行くのでしたね」
「え、あ、はい」
アウィーナはその杖で一度、とん、と地を揺さぶって、そして強い目でヒイロを見た。
「ならば私も同行しましょう」
地球の近辺ならば、案内が出来ますから。そう言って、ヒイロ、更にはサヨまでもを追い越し、宇宙船の前に立った。拒否することは無理そうだとヒイロは諦めた。同行者がいきなり二人も増えたが、果たして相棒の宇宙船は持ちこたえてくれるだろうか。
少しの不安と、地球への期待を胸に、ヒイロはこれから白で満たされることになる宇宙船へと駆け出した。
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