第5話

「とは言っても、ヒイロさんはとても動ける状況ではありませんね」

アウィーナの視線がヒイロから逸れる。彼女はどこか遠いところを見通すかのように、ヒイロの反対側に向かったのだ。


「私1人で探してきましょ・・・・・・」

「その必要はないよ」

アウィーナの言葉に、他の誰かの声音が被さった。それは、アウィーナの女性らしく、かつ形のはっきりとした声とは打って変わって、優しくあたたかみのある男性の声だった。足音が砂を踏みつぶす音が、ゆっくりと近付いてくる。

「あなたは、もしかして」

「うん、僕はこのあたりにいる"かみさま"さ」

「私が連れてきたんだよ」

今度ははっきりとした声。それは、幼い女の子の柑橘類のようなはつらつとした感じがこれでもかと伝わってくるようなものだった。


「私がこの星の天使だよ。初めまして、お姉さん」

「ええ、初めまして」

声の主が誰からでもはっきりと視認できるようになる。男性は長髪の美しい、目元が優しそうな顔立ちで、美青年、と形容しても誰も異を唱える者はいないだろうとヒイロは思った。もう一人、少女は男性の胸元あたりの背丈で、赤いワンピースと金色の糸で刺繍が施されたフード付きのマントを羽織っていた。茶色の髪が、一歩進むたびにふわふわと揺れる。

二人とも、アウィーナと同じく真っ白な羽を携えていた。長い杖には彫刻が施され、何かが杖の頂点にきらきらと輝いている。


「お姉さんが来た時点で、このあたりのかみさまに聞いていたの。力を使う許可を与えてもいいかって」

「そう、この子、ついさっき僕の元へ飛んできてくれたんだ。だから話は聞いているよ」

目を細める男性は、たちまちにして周りの空気を和らげる。先程までうろちょろと動き回っていたサヨでさえ、彼が現れてからはヒイロの隣にちょこんと座って、事の成り行きを見守っていた。

「それでね、僕だけでも判断が難しかったから、御神に相談したんだ。そうしたらね、これを君が受け取ってくれたなら力を使う許可を出すって」

これ、と男性が差し出したのは、紫色や金色の様々なモチーフで装飾が施された、ひとつのたまごだった。アウィーナはそれを見つめ、一度時が止まったかと思うくらいに目を見開いたまま固くなる。


「・・・・・・てんしと、おそろい」

サヨが小さく呟いた。言われたことを受けて見てみると、なるほど、彼らの腰元に、ビーズのようなキラキラとしたもので、瓶らしきものが下げられている。その中には、それぞれ違う色、形をした装飾が施されたたまごが入っていた。


「御神がお持ちになっていたたまごだから、普通のものではないよね。わたしもどんな風に特別なのかは特に聞かなかったけど」

「そうだね」

アウィーナを脅すかのように少女は言うけれど、それは悪気から出た態とらしいものではない。それは、ヒイロもサヨも見ているだけできちんと理解した。それにこれは、本来ならばきっと人間ごときが知ってはいけないはずの話だ。だから二人は、静かに3体のやりとりを見つめていた。


「さあ、どうする?」

私は---アウィーナが漏らす。辺りは空気を読んだかのように、風すら黙って続く言葉を待ちわびていた。

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