第3話
「ケガがなおれば、ちきゅうにいける?」
サヨが、ヒイロに向かって真っ直ぐな瞳で問いかける。その瞳は真っ赤で、ついさっきまで夢に見ていた故郷の星のようだ、とヒイロは一瞬吸い寄せられるような感覚を覚えた。
「いや、ケガが治っただけじゃダメだ。僕の乗り物は壊れてる」
サヨからすれば不思議な間が空いていた。それに気付いたヒイロは少し早口になって現実を確認するかのように言葉にする。
「あのおおきいのもなおせばいいの?」
サヨは再び問う。しかし、損傷が激しい宇宙船を直すには資源と技術が必要である。残念なことに、ヒイロにはその技術はないし、直すために必要な道具も資源もその場には無かった。
直す、と言うだけなら簡単だが、実際行うのはこんな状態では不可能だ。
「サヨ、君が思ってるよりここから回復することは難しいんだよ」
「わたしなら」
なんとかできる、かもしれない。そんなきがする。酷く静かな星だったから今まで気付かなかったが、サヨは声が小さかった。かもしれない、とまた曖昧な話だった。でも、可能性が少しでもあるならそれに賭けてみる価値もあるだろう。ヒイロは、サヨがどうやって「なんとか」するのかを尋ねた。
「なんとかって、どうやって?」
「んと、だれかよぶ。たすけてくれるだれか」
「そんなことができるのか?」
「できる。なにかがわたしにおしえてくれた」
サヨの話は科学的根拠のないもので、高度に技術が発達したこのご時世じゃ魔法や第六感なんてものはフィクションの中だけのものになって、きっと今の子供たちはヒイロも含めて本当のそういうことを理解していない。それは、最早「形式」とかそういう表し方が合っているような、そんな使われ方をしている言葉。ヒイロが戸惑うのも無理ないことであった。
そんなヒイロを他所に、サヨは「だれかをよぶ」ことを決意した。
考えることなどない。ただ無意識に、柔らかく真っ白な手で鳥籠を作るかのように指先を合わせる。それから、ヒイロの傍らに、地面にぴったりとその細い脚をつけたまま、ゆっくりと瞳に蓋をした。徐々に籠の中には小さな光が幾千と集まり、渦を巻きはじめる。だんだんと加速したその小銀河は、やがて四方八方へと飛び散っていった。
刹那。今度は青白い光が呼応するかのようにヒイロとサヨの元へと一直線に駆けてくる。
「ほら、できた」
サヨは自分のしたことに何ら疑問を抱かずにそう呟いた。今度は曖昧や疑問ではなく、ただなんとなくサヨの首が傾く。それはまるで幼子が何かを誇るように。彼女が言葉を切るその時に、青白い光はヒイロとサヨの目の前まで辿り着く。
「・・・・・・一体何・・・・・・?私を引き寄せた、強い力は・・・・・・」
光を導いてきたモノ。それは、駆ける事を止めてなお青の鈍い光を放っていた。しゃらり。腰元から、鈴のような音がする。
それは、青と白の天使だった。
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