第7話 Happiness 幸福というもの 加筆修正有2021.2.26/9.5

7.

" A Happy Time 楽しいひととき"


 待ちにまった12月24日クリスマスイヴ。


 設樂課長のお宅へ伺う。

 駅まで課長がお子さん達を乗せた車で迎えに来てくれた。

 広美ちゃんと卓也くん達は子供らしく屈託のなさで元気いっぱい。


 「こんにちはぁ~♪」と二重奏で始まり、ふたりの尽きないお喋りの

合間を縫って課長と挨拶を交わす。

 なんか賑やかでいい感じだ!



 「もう今日はね、じじ、ばば、子供達、皆君の来るの楽しみにしてたんだ」



 「え~っ、そんなに期待されてたンですか?光栄ですぅ。

 私もクリスマスイヴ誘っていただいた日から指折り数えて楽しみに

してました」



 それは、多分に数少ない品行方正な設樂課長への興味からの

ような気がする・・ご本人にそんな事言えないけど。


 「広美ちゃんも卓也くんも元気が良くて可愛いですね。

 課長にお子さんがいらっしゃるかどうかは判らなかったので

今日バーンッと元気っ子に会えて得した気分です。

 私は小さな子や子猫子犬なんかもう目がないんですよ。

 ウルウルするくらい大好物なんです」




「大好物って・・・ハハハッ。

 じゃぁ、家にあともうひとつ好物が待ってるよ。

 ニャオっていう飼ってる子猫がね」


 「わぁ~楽しみ!

 残念ながらうちのマンションじゃ飼えないんですよね」



 

 「黒崎さん、ニャオすっごく可愛いよ。

 すぐに寄って来てスリスリするンだよ。

 おかあさん猫はね、ばぁちゃん家にいるんだよ」


卓也くんが教えてくれた。


 「おかあさん猫と離す時、大変じゃなかった?」



7-2.


 仔猫のニャオの話をひとしきりしている内に課長の豪邸に着いた。

 100坪の敷地に50坪余りの家、りっぱな門構え。


 玄関に入るとすぐにニャオが出迎えてくれた。

 人懐っこい猫だ。


 すぐに側に来てミャアミャァ言うので抱き上げたんだけど、大人しく

してくれたのでそのままニャオを抱いて皆さんの待つリビングに通されて

ご挨拶をした。


 課長のご両親の武士さんに玲子さん、奥さんの真智子さん

弟の慎一さん。


 本当に信じられないけど、こんなに沢山のはじめましての

方々とのご挨拶だったのに、すごくリラックスしている自分に吃驚した。


 皆さんのね、何ていうか空気がとっても柔らかいっていうか和むって

いうか。


 自然体でいられる心地よさがあった。

 女性だけが頑張ってパーティーの準備をするのではなくて皆一丸と

なってがポリシーのようで、リーダーは設樂課長と奥さんの真智子さん。


 おふたりの指令でパーティー開催を目指して動くことになった。


 買出しへは、私と慎一さんが任命された。

 私だけが何も知らずにいたんだけど、このパーティーは課長を筆頭に

ご両親と弟の慎一さん達の熱望によって実現された見合いだったのだ。


 鈍感な私はしばらく、判らず過ごした。



7-3.


 何も知らされていなかったのが幸いして私は自然体でいられた。


 この時は慎一さんが既婚者なのかシングルなのかも判らなかったけれど

課長に対する気持ちと同じような気持ちで感じの良い人だなって彼を

見ていた。


 穏やかな物腰でちょっとした場面でやさしい性格が顔を覗かせる設樂慎一。

 

 こんな人が伴侶だったらなぁ~、なんてね思った。

 でもこんな素敵な人が独身のはずないわよねぇ~と、自分に

突っ込み入れたりして。


 子供たちもツリーを飾ったり食器を運んだりお料理を手伝ったり

その横でニャオがくっついて、そんな小さな子供たちと仔猫の様子を

間近で見ているだけで、すでにHappyな気分になってしまった。


 皆ヤンヤヤンヤちっとも黙ってなくて「あーそれそれ、それよ~」

とかね、「あーあかねさん、これ持っててくださいな・・」って

ババ様の玲子さんからHelpを頼まれたり「このスープの味見して

貰えません?」と課長の奥さんからお願いされたり、「黒崎さん、ごめん

足りないものがあった。もう一回慎一と買いに行って貰えないだろうか」

と課長からの再度の指令が出たり。


 なんか気が付いたらほどよい疲労感と共によいしょって感じで

皆さんと一緒にテーブルについてて、そしてパーティーが始まった。


 子供達や仔猫がきゃーきゃーワイワイ、みゃーみゃー言う中

メインの食事の後、世代を越えて課長のご両親の昔話に聞き入ったり

課長と奥さん私と慎一さんとで音楽や映画の話題で盛り上がったりして

イヴを過ごした。


 帰らなきゃいけない時間になると、まるでシンデレラ気分になっていた。


 不思議な気持ち、まだまだこの幸せな時間を堪能したかった。

 去りがたかった。


 だけど時間は待ってくれない。

 22時になった頃、お暇(いとま)することにした。

 

 帰りは課長と奥さんが同乗してくれて慎一さんの運転する車で

自宅まで送ってもらった。


 こういうのを至れり尽くせりというのだわ、と私は彼らの走り去る

車にお辞儀をしつつ、幸福感に包まれたのだった。

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