第8話 Happiness 幸福というもの 加筆修正有2021.2.26/9.5

8.

" Double-Edged Sword 諸刃の剣 "


 設樂家のクリスマスパーティーに行った日から数日後

笠原くんと一旦交際を止めてから1ヶ月半が過ぎようとした頃

年の瀬に久しぶりに笠原くんと会社帰りにお茶することになった。



 「今日定時に終われそうなんだ。黒崎さんのほうはどう?

少し話しておきたいことがあって。

 もし今日駄目なら都合のいい日に一度話したいんだ」



 「じゃぁ、私も何とか今日定時で終わらせるね」


 

 そんな風にして私達がよく利用していたコーヒーSHOPで私たちは

待ち合わせをした。


 久しぶりにあかねと2人で会う為、竜司はうれしくもあり

少し緊張等もしていた。



「あれから2人の女性(ひと)とお見合いしてね。


 見事2人から断られてこれで母も諦めてくれるだろうと思っていたら

これで最後にするからって3人目の釣書を持ってこられたんだ。


 なんとか1月中にめどをつけようと思ってたんだけど2月に跨るかも

しれないから黒崎さんに知らせておこうと思って」



8-2.


 この先にふたりの将来はないものとすでに心の中で決めていたあかねは

厳しい現実が何も見えていない竜司にどんな風に伝えればいいのだろう、と

いう思いがあった。




 「笠原くん、大変そうね」




 「まぁね、でも僕達の未来の為だと思えばこれくらいはね。

 それよりも黒崎さんと今は付き合っていないというこの状態

のほうがキツイかな。

 こんな風に思ってるのは僕だけかもしれないけど」



 少し疲れている様子で笠原くんはそんな風に言った。

 どう反応したらいいのか困った。



 「笠原くんが続けて2人の女性(ひと)から断られるなんておかしいわね。何かした? 」


 私は少しの興味もあって話題を変えた。




 「したね。

 僕は最初から結婚をしない前提で見合いするという不誠実なことを

しているわけだからせめて相手の女性に恥をかかせないようにしないとね。   

 デートの時は手作りしてくれた弁当を1/3位残してみたり映画を見ている

途中に音をズルズル立ててジュースを飲んでみたり」


8-3.


 笠原くんは好青年で素敵な男性(ひと)だ。


 そんな人から普通では有り得ないことをされるなんて充分

お相手の女性達にはむごい仕打ちと私には思えた。


 それもこれも私との結婚をお母さんに認めてもらう為なのだ。




 「笠原くん、次にお見合いした人と・・もしも・・もしも

だけどね、恋に落ちたらどうする?私のことを思って苦しんで

それでもその女性(ひと)に想いを寄せる気持ちをどうすることも

できなかったら。


 最初は私に悪いと思ってくれるかもしれないけど、その人への気持ちが

どんどん膨らんでゆくのと同時に私のことが足手まといになると思うの

きっとなる。


 物事に100%ないって言い切れることなんてないのよ。


 お見合いをするっていうことはそういう事。

 笠原くんはそういう部分は考えてなかったでしょ?

 お母さんとの取引でのことで私の為そう思って頑張ってくれているのは

判るけど、諸刃の剣ってこと。


 私の為にしていることが私との決別にもなり得ることなの」




 思ってもみなかった考えを聞かされて竜司は驚いた。


 諸刃の剣、あかねが自分の行動をそんな風に解釈していたなんて。


 見合い相手を好きになるはずがないという自信があっての、本意ではない

見合いだけれど、もしあかねとの出会いのような心ときめく

見合い相手だったら。


 あかねの言うようにそんな出会いが1mmもないとは確かに

言い切れない。


 しかし、なら母に交換条件を出された自分は一体どうすれば

よかったというのだ・・・とも思った。



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