第4話 『Happiness 幸福というもの』 加筆修正2021.9.5
4.
" Nonsense 世迷い事 "
竜司は兄からの助言もあったので母から提案された見合いの件を
あかねにそのまま正直に伝えるべきか、はたまた兄の言うように
内緒にしておくか随分と頭を悩ませた。
迷っているうち会社帰りにお茶することも憚られるように
なってしまったが、いろいろ悩んだ末にあかねに見合いの件を
話すことにした。
久しぶりの会社帰りのデートだった。
顔合わせの日から1週間が過ぎていた。
「すぐに話ができなくてごめん。
あの日は母が失礼なことを質問して申しわけなかったね」
「私のほうこそ、質問(離婚理由)にちゃんとお返事できなくて
申し訳なく思ってます」
「あれから母親との間で悩ましいことがあって、考えがまとま
らずなかなか黒崎さんと話す機会を作れずにいたんだ」
あかねは竜司がどんな提案をしてくれるのだろうかと、ドキ
ドキしながら次の言葉を待った。
「実はとんでもなく馬鹿馬鹿しい提案なんだけれど、その
提案を呑めば僕と黒崎さんとの結婚を考えてもいいと母が
言ってるんだ。
あんまりバカバカしいから断ろうかとも思ったんだけど
受けてみようかと思ってる」
「そのお母さんの提案ってどんなコトなの?」
4-2.
「・・・ 見合い」
「・・・ み・あ・い? 」
「うん、お見合い」
「笠原くんと誰かのお見合いってことなのね?」
「何度かちゃんと見合いしてほしいって。
それでいいと思う人がいなければ黒崎さんとのことを考えてもいい
って言ってるんだ。
初めから気持ちもないのに見合いをするなんて相手の人には申しわけ
ないけどね。僕も背に腹は代えられないからね。
見合いすれば僕達のことを認めてくれるっていうんならお安いもんだと
思って。
そういう事でしばらく休日に会えなくなるかもしれないけど
心配しないで待っててほしいんだ」
あかねは考えもしなかった竜司の告白に体からどっと力が抜
けていくのを感じた。
反対されるようなら家を捨ててでも私と一緒になりたいと
言ってたのでそのような流れの告白なのかと期待していたけれど
全くの期待はずれ・・・どころか
もしかして最悪の告白かもしれないと思った。
竜司はどこまでも母親の心変わりを待つことにしたらしい。
4-3.
竜司の見合いは自分との結婚を母親に認めてもらう為のもの
そう主張する竜司の言い分に嘘偽りはないのだろう。
けれど万が一にも竜司が心惹かれる女性がその中に100%いないと
言い切れるのだろうか。
もし心惹かれる女性に出会ってしまったら。
竜司とあかねにとって竜司が見合いをするということは、時として
諸刃の剣となる可能性もゼロではないのだ。
きっと彼はその事に気付いていない。
「私と付き合ったままでお見合いするのは二股に
なるわよ!」
「えっ!! 思いつきもしなかったけどそう言われれば
そういう事になってしまうね」
そう言ったきり竜司はだまってしまった。
次の言葉を紡ぎ出せない彼に私は手を差し伸べる。
「竜司さんのお見合い行脚が終わるまで、私たち一度お付き合
いを止めて中断するっていうのはどうかしら?そうすれば
二股ってことにはならないし、何の問題もないでしょ?」
「デートも無しで、それまでは会わないってことだよね」
4-4.
「そんなに先のことじゃないでしょ?それとも随分会えないほ
どたくさんお見合いするつもりなの?」
「もちろん僕としては2~3回位すれば母も納得してくれると
思ってる。だから2ヶ月位のことで済むと思ってる」
竜司は本当に2ヶ月程かけて2~3人の相手と見合いして政恵
と決着をつけられると思っているようだ。
竜司の自分に対する気持ちは良く理解しているつもりだが
実際現実問題として見合いをし、その中から自分に相応しい女性が
いないなら私との結婚を考えてやってもいいとの政恵の提案について
これがどれ程あかねを侮辱した行為であるのか、竜司がそこの部分に
付いて全く考えが及ばないことにもかなりガックリきたあかねだった。
最悪、竜司にあかね以上に心惹かれる女性が出現した場合
あかねは必然的にお払い箱。
数人の女性の中に気に入った女性が見つけられなかったらあかねと
結婚。
あかねとの結婚の為に決めた竜司の見合い。
頭では判っているつもりだが心が付いて行かない。
ともかく形式だけのことで実際には違うのだからと言われても
二股にされるのはあまりに惨め過ぎるのではないか。
とにかくここで、あかねは竜司との交際を形式上だけのものとしても
終了させておきたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます