第5話 Happiness 幸福というもの 加筆修正有2021.4.23
5.
" Boss 上司 "
なんだかんだと言ってもよほどのことがない限り、実の親と絶縁
するなんて難しい話なのだから竜司の提案を聞いてしばらく
落ち込んだけれど、2~3日経って逆にこれで良かったのだと
あかねは思えるようになっていた。
政恵の非常識な提案。深く物事を追求することが出来ないで
簡単にやすやすと政恵の言葉を真に受けて提案を呑み込んで
しまった竜司。
笠原くん、ごめん。
私の為にお見合いまでしてくれるみたいだけどもうこの先の
私達の復縁はきっとないかもね。
そんな状況のあかねだったので仕事に支障をきたすことは
なかったけれど、その後しばらく元気がなかった。
片や、竜司は黒崎あかねとの結婚を夢見て政恵の持ってくる
縁談をこなす日々を送っており、疲れはあるものの夢がある分
毎日充実感に満ち溢れた日々を過ごしていた。
そうして日々は誰にとっても平等に流れていく中、黒崎あか
ねにひっそりとビームを送り続ける人間がすぐ側にいた。
---
本当に信じられない、信じられない世の中だとあかねが実感
したのは離婚してからだ。バツイチになった途端、これでも
かというほどモテた。中には独身もいたがとにかく子持ちの
おじさんに至るまで既婚者からひっきりなしに声がかかる。
流石に7年も経つと落ち着いてきたが、人事異動などで人が
動くと今も、なのだ。
妻も子もいながら何故私を誘うのか!軽く見られているのか
と思うと蹴り飛ばしたくなる。ホント男も結婚して年を食う
と厚かましくなるようだ。
そんなトンでも輩の群れの中で、不埒な言動を一切しない
数少ない男性があかねの所属する課の課長、設樂灯(したらともる)
であった。
仕事は有能だし品行方正。
彼に妻子がいなければお婿さん候補にしたいと思えるよ
うな人物であかねが尊敬できる数少ない上司のうちの
ひとりだ。
最近になり、あかねの様子を密かに見守っているのが何を隠
そうこの設樂であった。他に何人の職員が黒崎と笠原の交際
を知っているかは判らないが、いつだったか読みたい本があ
り、駅からそう遠く離れてない書店に行った折に2人が仲良さ
げに書店のある商店街で一緒にいる所を見かけたことがあり
そんな事もあってその後も時々2人の動向を気にかけており
おそらく交際しているのではないかと、推測していた。
2人からまだ結婚の話は持ち上がってはいないのだから
一縷の望みはあるはずだ。
「だめならだめだった時のことさ」と誰にともなく呟く
設樂だった。
このところあかねに元気がないのも気になっている。案外
2人の付き合いは暗礁に乗り上げているかのもしれない
と設樂は思った。
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