第10話 オン・ザ・ロード (ON THE ROAD)
♪ 今が とてつもなく 悲しくっても
勇気を出して 一歩を踏み出そう
オン・ザ・ロード(ON THE ROAD)
未来への 旅の途中だから …… ♪
「これって、私たちのデビュー曲だったでしょ。だけど、あなたの未来への旅はここで終わるのよ」
美容に良いわよ、と騙されて、青酸カリ入りのカプセルを飲み、いまわの際にあるミライに、
「仲直りしようと、古都を誘ったのに、なぜ?」
ミライは疑問が解けず、目に涙が溢れる。
7年前の大文字の夜に、ずっと一緒に唄って行こうと誓い合った二人。しかし古都はミライの断末魔の叫びを聞き流し、憎悪の言葉をさらに浴びせる。
「往生際の悪い女ね。3年前にコンビを解消してから、ミライは私が書いた歌を盗んで、まるで才能があるかのように振る舞って、人気を独り占めしてきたわ。そのお陰で、私は仕事を失い、極貧生活よ。その上、私の妹の彼氏まで強奪したわよね。もう許せないから、ミライにはあの世へ行ってもらいます」
大文字、今年も8月16日午後8時丁度に点火された。点々としていた炎が5分後には繋がり、赤々と燃え盛る大の字を夜空に浮かび上がらせる。
そんな夜にミライはホテルの一室で絶命した。
古都はその冷たい亡骸越しに、
―― ミライ、新時代を切り開く、アバンギャルドなシンガーが毒殺される ――
翌日、こんな号外が街で配られた。
澄んだ声で、語り掛けるように唄うミライ、抜群の歌唱力の持ち主だ。
古都とのコンビ解消後はソロ活動をし、ファンを増やしてきた。そんな歌姫が昨夜殺害されたという。人々は仰天した。
即刻捜査一課にチームが結成され、百目鬼刑事も招集された。そして不仲だと噂がある古都に、事情聴取の要請が掛かるのにそう時間を要しなかった。
その古都の主張とは……。
私は車の運転が大好きで、8月16日は愛車を走らせ、翌日のライブに参加するため一人東京から京都の手前にある大津へと向かっていました。
その行程は新東名を通って、豊田ジャンクションから伊勢湾岸道へ、それから新名神を使い草津へ、そこから名神高速道路の下り線へと乗り移りました。
もちろん安全運転で、午後4時頃静岡のサービスエリアで休憩を取ったりして、結局夜の9時過ぎに大津の出口を通過しました。
その時、うっかりETCゲートでなく、一般出口に進入してしまい、困っていたら係員が現れ、助けてくれました。
高速道路の一人での移動です。
だから車を放ってどこかへ行くことはできませんし、京都でミライが殺された午後8時過ぎは高速道路に――、まさにオン・ザ・ロードだったわけです。
早速この供述の裏は取られた。
確かにその通りで、これにより古都のアリバイが成立した。
しかし、百目鬼はどうも収まりが悪い。デスクで腕を組んだまま微動だにしない。部下の芹凛こと芹川凛子刑事も頭を抱えてる。
だが、これでは埒があかず、芹凛が百目鬼の顔を覗き込む。その瞬間、百目鬼はカッと目を見開き、「単独犯でないと仮定し、走行中の高速道路から京都のホテルに行く方法はないか調べてくれ」と。芹凛はオヤジの意図が理解でき、あとは黙々とネット内で検索する。
そして一時間後、「コーヒーでも入れましょか?」と芹凛が席を立った。
百目鬼はわかってる、芹凛が推理を組み立て終えたのだと。コーヒーを受け取りながら「お嬢、話してくれ」と促すと、芹凛は辻褄を崩さないよう慎重に語り始める。
犯行は――古都と
そして車は2台。
つまり古都は愛車で、A/Bは車Xです。
そしてこの三者は静岡サービスエリアで合流した。
古都はAに愛車のキーを渡し、歩いて隣接のパークへと抜け、タクシーで新幹線静岡駅へと向かう。それから17時11分発のひかりに乗車し、18時47分に京都駅に到着した。
そこからホテルへと向かい、20時過ぎにミライを毒殺した。
一方古都に変装したAは古都の愛車を運転し、途中のサービスエリアで目撃者を作りながら西へと。
またBは車Xで、Aが運転する古都の愛車と併走した。
そして2台の車は大津の手前の瀬田東よりバイパスを通り、京都の先の名神大山崎へと。ここで下り線から名神上り線へと乗り移ることが可能で、これを実行。
古都はミライを殺害後ホテルから出て、名神上り、京都深草のバスストップへと行き、指定していた時間に入って来た愛車に戻る。
この時、古都の愛車を運転して来たAは、Bが運転して来た車Xへと乗り換える。
これにより静岡サービスエリアでの元の配車状態、すなわち古都は愛車に、AとBは車Xにとなる。
その後、古都は一人愛車を走らせ、大津でまるで東から来たように高速から下りた。またAとBは車Xで東へと帰って行った。
こうすることによって古都はずっと高速道路を一人ドライブして来たと偽装した。そして午後8時過ぎに、ミライの殺害現場には絶対行けないアリバイを作った。
ここまでを話し終えた芹凛、「この古都の頑強なアリバイを、どう崩したらよいのでしょうか?」と自信がない。そんな芹凛に、百目鬼はギョロッと目を剥き、言い放つ。
「確か古都にはよく似た妹がいたな。さっ芹凛、古都のアリバイをぶっ壊しに行くぞ。つまり、Aは妹。ミライに彼氏を盗られた妹は――、ミライが殺害された時刻に、姉の古都の愛車で、オン・ザ・ロードだった、と証明すればよいのだ!」
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