第8話 天空の城
晩秋の晴れた早朝、
竹田城はそのベールを天へと突き破り、宙に浮かぶ。まさに天空の城だ。
そして、その風景を眺望できるポイントが城と対峙する
そんな時だった。雲海の下からブーと音が聞こえてきた。そして、あっと言う間もなく、最近市販され、人気を博してる小型無人航空機・ドローンが現れた。
きっと有視界飛行機能を使った遠隔操作なのだろう、まるで
この最新機を使って、今までとは異なったアングルで天空の城を撮影する。たとえそれが理由だとしても、まったく迷惑な話しだ。
「消え失せろ!」
一郎が手を振り上げた。その瞬間だった。
「あっ!」
身体が宙に浮き、一郎は崖下へと……。岩に頭を強打し、即死した。
京田家の長男の一郎は、父であり社長である
一方弟の
それでも互いに認め合い、仲良くやってきた。
しかし、ここへきて父が病に倒れた。こうなれば跡取り問題だ。
家督の順位で行けば、長男の一郎が社長を継ぐことになる。このことより兄は、野心に満ちた弟の目の上のたんこぶとなり、最近兄弟仲が悪い。
そんなある日、一郎は弟に歩み寄る意味で居酒屋〈天空の城〉を開設し、すべてを次郞に任せようと考えた。その看板にと竹田城を撮りにきたのだ。
だが不幸にも転落死してしまった。
そして四十九日が終わり、社長は次郞で一段落したかと思われた矢先だった。事もあろうか、今度は次郞が本社ビルの屋上から飛び降りたのだ。
―― 兄、一郎の社長昇格がもし決まれば、それは私にとって我慢できないこと。そこで私が立雲峡で転落死させました。――
こんな遺書が残されていた。そして、背後から兄に体当たりする次郞の、ドローンから空撮された写真が添えられていた。
さらにだ、私は人殺しです、会社と一族の名を汚し、死をもってお詫びします、と結ばれてあった。
こんな事態に陥り、再捜査を命ぜられた百目鬼刑事、「無人ヘリは次郞が一郎を突き落す瞬間を狙っていたのだろう。よって、二人をよく知る第三者が首謀者ってことか」と独り言ちる。これに耳を貸す風もなく、次郞が残した写真をスキャンし、PCでチェックしていた部下の芹凛こと芹川凛子刑事が唸った。
「奥の木陰に、ケイタイで誰かと話す女性がいます。拡大してみると……、これって社内メールにアクセスできるブラックベリー、そういえば、ロサ・ブランカの幹部はこれを使ってたわ」と。
百目鬼はこれを無視し、見出し『次期社長は、同族外の斉藤常務が濃厚』との朝刊を芹凛の前に置く。
「すべてが繋がってるようだな。さっ、ロサ・ブランカの本社へと出向くぞ」と百目鬼が表へと飛び出した。
芹凛はただ追い掛けるしかなかった。
すべての聞き込みが終わり、無言のまま百目鬼と向き合っていた芹凛が「コーヒーでも入れましょか」と席を立った。百目鬼は感付いた、芹凛の思考が一段落したのだと。
そしてすかさず「お嬢の推理を聞かせてくれ」と促すと、芹凛はコーヒーをカップに注ぎながら語り始める。
「常務の斉藤が下界から無人ヘリを操作し、それに怒る一郎を、次郞が後ろから崖下へと突き落としました。その状況を木陰から斉藤にレポートしてたのは、社長秘書のカナカです。斉藤とカナカは互いに連絡を取り合って、斉藤は次郞が体当たりする一瞬をドローンのカメラで撮ることに成功しました。今度はそれをネタにし、斉藤は次郞を屋上へと呼び出し、突き落としたのです。もちろん遺書は斉藤が作った偽物です」
百目鬼はこれに特段の興味は示さず、「ところで、斉藤とカナカの関係は?」と。
「カナカは貧しい、母一人子一人の家で育ちました。幼馴染みの斉藤はカナカが愛おしく、まるで妹のように金銭含めて援助してきました。そのお陰かカナカはロサ・ブランカに入社し、社会人となりました。カナカはこれまでの恩返しにと、いや、もうそれは愛でしょう、ロサ・ブランカの乗っ取りを企てていた斉藤のスパイになったのです。社長秘書の立場を利用して、すべてのお膳立てをしたのです」
「うーん、およそ解けてきたな」
その割には百目鬼の表情が厳しい。そしてポイントを突く。
「なぜカナカは、社長の秘書になれたんだ? 斉藤に力があったとしても、京田一族の奥座敷で采配する
これは指摘通り、まことに盲点だ。芹凛は今までの捜査記録を繰り直し、必死に考えた。そして、やっと結論を得た。
「カナカは京田龍介と愛人との間に出来た娘では?」と。
きっとこれは正解だろう。そのためか、鬼の百目鬼刑事が間髪入れずに、「今は一郎も次郞もいない。だから次期社長は――、カナカだ!」と言い切った。
これを受け、「カナカは直接的に人を殺してないわ。これからはすべての罪を斉藤に被せるつもりなのね、最初からカナカの謀略なのよ」と芹凛が女鬼の目を鋭く光らせる。
「それが一族というものだ、確かに骨肉の争いはある。だが最後の最後には、たとえ後継者が愛人の娘であっても、血によって守られるということだよ」
こう吐き捨てた百目鬼、「今回の仮説は……、血族外の斉藤常務にとって、自分を慕ってくれたスパイのカナカ、実はおぞましい魔物だった、ってことだよ。さっ、芹凛、それを暴きに行くぞ!」と不敵な笑みを浮かべるのだった。
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