第46話

 ベッドから目を覚ますとウェインさんの姿が写っていた。

「起きたか山城。可愛い寝顔しているな」

「ウェインさん今何時ですか?」

「ちょうど寝る前の会話が終わってから2時間後だ。目覚ましの意味はなかったな」

「ほんとですね」

 俺はセットした目覚ましをリセットして着替えた。

「山城、シフォンが待っている女王の間に行く準備を急いでしておけよ」

「着替えるだけですからもう準備オッケーですよ、シフォンさん待たせる訳にもいかないんでもう行きましょう」

 俺はそう言って先にドアを開けた。

 シフォンさんがそこに居たので準備は出来ていることを伝えるとウェインさんと一緒に女王の部屋まで歩いた。

「山城あの魔法がカギになるんだから敵の隙が出来た時に唱えろ。タイミングは任せるぞ」

「プレッシャーをかけないで下さいよ」

「何の話をしているんだい」

「あ、シフォンさん。ウェインさんが俺に怪盗ルブジオン対策の魔法を教えてくれたんですよ。その魔法は1回しか使えないから慎重に使えって話です」

「それはまた大変な役目を背負ったもんだね。でも大丈夫ウェインがいればこの程度の事件はすぐに解決できるさ、心配しなくてもいいよ。ところでどんな呪文何だい?」

「シフォン。お前には関係のない呪文だ教える必要はないだろう」

 ウェインさんが会話を断ち切った。

「それよりも政務の方はいいのか?いくら今日が警備厳重だからってお前まで警備に入ることはないんだぞ」

「そういうわけにもいかないよ。相手はあの怪盗ルブジオンなんだからね。俺も警備の1人として女王護衛に加わることになったんだ」

「急な話だな。てっきりお前の事だから私に任せるものとばかり思っていたが…」

「事態が事態だからね。俺も女王の事が心配って訳さ」

 シフォンさんの話が終わると女王の部屋に着いた。

 案内はウェインさんがしてくれたのでシフォンさんは案内役で来たというわけじゃないようだ。

 本当に護衛してくれるのならプレッシャーも減って大助かりだ。

 女王の部屋には1人の年老いた気品のある女性がいた。

 おそらくこの人が女王だろう。

「初めまして、ストーンカ国現女王のミライラ・ルシドフォン・キュイズです」

 長い名前だなぁ。

 女王ともなると名前も長くなるんだな。

 俺達はシフォンさん以外それぞれ自己紹介をしてミライラ女王の護衛に入った。

「ミライラ女王、王家のペンダントは持っていますか?」

 シフォンさんが質問した。

「ええ、ちゃんと私の胸に首元に着けていますわ」

「それはよかった。俺が政務中にペンダントが盗まれでもしたら国は大騒ぎだったからね」

「そうですね、それにまだ予告時間じゃないですもんね」

「山城、油断はするな。もう怪盗ルブジオンは来ているものと思って警戒しておけ」

「はいはい、わかりましたよ。言われた通り警備しますねウェインさん」

 こうしてシフォンさんとウェインさんと俺の3人でミライラ王女の警備をすることになった。

 予告の時間まであと50分だ。

 本当に怪盗ルブジオンは現れるのだろうか?



 警備を始めて40分が経過した。

 予告上通りなら残り10分で怪盗ルブジオンが現れるだろう。

「ミライラ女王。ちょっといいですか?」

 シフォンさんがミライラ女王に話しかけた。

「これから先は何が起こるか解りません。ペンダントを私に預けてはくれませんか?必ずや王家のペンダントを死守してみせます」

 シフォンさんがそう言うとウェインさんが剣を抜いてシフォンさんに向けた。

「…何の真似だウェイン」

「ミライラ女王。王家のペンダントはそのままお持ちになって下さい」

「どうしてシフォンさんに剣を向けるんですか?」

「こいつが怪盗ルブジオンだからだ」

「何馬鹿なこと言っているんですか?ウェインさんと今まで旅を続けていた人じゃありませんか」

「そうその通りだ。見事に変装している」

 変装だって?

「おいおいウェイン。ふざけている時ではないぞ?」

「どこから忍び込んだのかはわからないが、女王の部屋に行く会話の中から不信感が湧いていた」

「不信感ですか?」

 何だろう、その不信感を湧かせることって…。

「山城はシフォンの言葉遣いに気になる点はなかったか?」

「いえ特に何も…いつも通りのシフォンさんでしたよ。出会ってまだ1週間も経ってませんけど…」

「こいつは…シフォンは自分のことを俺なんて言わない。どんな時でも僕という」

「なんだと!?」

 シフォンさんは動揺している。

「本物は政務室にいるだろう。お前が怪盗ルブジオンだな」

 まさかウェインさんの言う通りなら、いやでも確かに移動している時は口調が俺だった。

 ということは…。

「流石長い付き合いなだけあるね闘神ウェイン殿」

 シフォンさんの口調が変わった。

 その目はギラリと輝いていた。

 周りに花びらが舞い出してシフォンさんの姿が見えなくなっていく。

「やはりお前が怪盗ルブジオンか!」

「その通り。私はありとあらゆる秘宝を華麗に手に入れた怪盗ルブジオン・マクドゥエルだ」

 桜の花びらが辺りに舞っていて辺りは見えないが声は近くに聞こえる。

 怪盗ルブジオンはシフォンさんに変装していたのだ。

 花びらが辺りから無くなった時にはミライラ女王が怪盗ルブジオンに捕まって刃物で首を狙われていた。

「そこで大人しくしていれば女王の命は助けよう。なぁに私が王家のペンダントを貰うまでの短い時間だ。それまで我慢していてくれたまえ」

「山城、動くな。まだアレを使う時じゃない」

「おやおや、この期に及んでハッタリかい?闘神ウェインといえども人質があっては手出しも出来まい」

「ハッタリとでも何とでもいうがいい」

 ウェインさんは時間を稼いで怪盗ルブジオンの隙を見せる気だ。

 そこで俺がストップの魔法をかければウェインさんがなんとかしてくれるに違いない。

「何の騒ぎだ!」

 ドアから本物のシフォンさんとランジュさんにキースさん、それにノヴァさんもやってきた。

「これは…!」

「ミライラ女王が人質にされてるわ」

「お前たち動くな。動けばミライラ女王の命は無いと思え。そして私が怪盗ルブジオンだ。はっはっはっはっはっはっ!」

 怪盗ルブジオンが高笑いしていると剣の位置がズレた。

 剣がミライラ女王の首から離れた。

「山城!今だ!」

「ストップ!」

 俺はウェインさんの言われた通りに両腕を上げて呪文を唱えた。

「何だ!体が動かん!」

 怪盗ルブジオンは動けないままウェインさんが女王の所までダッシュして、怪盗ルブジオンを取り押さえた。

「移動中に話していた怪盗ルブジオン対策のストップの魔法だ。効くだろう?」

「おのれ…すべてはこのためだったというわけか…ウェイン。ウェイン・アースランドォォォォォォォォォオッ!」

 怪盗ルブジオンはドアから入ってきた複数の兵士に取り囲まれて捕まった。

 ウェインさんが魔法で光の縄を怪盗ルブジオンの体に巻き付けた。

「そしてこれが束縛魔法のシャイニングローピングだ。このまま牢屋に連れて行ってくれ」

 ウェインさんが兵士にそう言うと兵士は手錠を怪盗ルブジオンに付けて連行した。

「山城。お手柄だぞ」

 ウェインさんの一言で俺は上げっぱなしの両腕を下に戻して腰を着いた。

「…ウェインさん。終わったんですよね?」

「もちろんだ」

「助けていただいてありがとうございます。ウェイン様、山城様」

 ミライラ女王からお礼の言葉を貰うと周りは緊張の糸が切れたのか和やかな空気に変った。

「山城君がまさかここまでしてくれるとは思わなかったよ」

 シフォンさんが俺を起き上がらせてそう言った。

「自分でも上手くいくとは思いませんでした」

「おい、シフォン。私は評価しないのか?」

「ああ、ウェインも相変わらずナイスな活躍だったよ」

「本当だぜ。これは息の合った2人の連携プレーだな」

 キ-スさんが俺達を褒めると怪盗ルブジオンを捕まえたという実感が今更湧いてきた。

 テストで初めて1位を取った時の喜びと言えばいいんだろうか、それと同じくらい嬉しかった。

「山城君、今日はゆっくり休んだ方がいいぜ」

「そうさせてもらいます」

 ノヴァさんに言われて俺は部屋に戻った。

「山城、私を置いていくなんてちょっと酷いぞ」

「あ、すいませんウェインさんつい…」

「ついで済むか。全く」

 周りから明るい笑い声が聞こえる中で俺達は女王の部屋を出た。

 自分の部屋に戻り、ウェインさんと話をした。

「山城。今回はお前の活躍で怪盗ルブジオンを捕らえることが出来た。ありがとう」

「そんな礼を言われるほどのことはしてませんよ。ただ両腕を上げてストップって言っただけですし、ほとんどウェインさんの活躍みたいなもんですよ」

「だが、あそこに山城がいなければ出来なかったことだ」

「そういわれるとそうですね」

「今夜は飲もう」

 ウェインさんはそう言って異空間を出して酒とつまみらしいものをテーブルに出してきた。

「ウェインさん、俺未成年ですって」

「今日くらいいいじゃないか。山城の大活躍だったんだから、仲間として実感できた良い日でもあるんだしな」

 仲間か…もう友達といえる仲になっているんだな。

「それなら酒でなくオレンジジュースでお願いします」

「わかった。パワパフ村で取れたフルーツのジュースを出してやろう。あっ、それと山城の世界で出来たカレーを久々に作ってご馳走させてやろう。材料は私が複製魔法で出して、厨房はシフォンに頼んで使わせてもらおう」

「そんなに一杯食べれませんよ。つまみとフルーツジュースだけでいいですから」

「そうか、わかった。では乾杯!」

 ウェインさんのお酒と異空間で出してもらったフルーツジュースのグラスを当てて、その日はおいしい食べ物を堪能した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る