第47話

 次の日になるとウェインさんは俺の部屋で寝たままだった。

 あの日のウェインさんは上機嫌で酔っていた。

 もたれかかってくるもんだから胸が当たってふにゃっとした感触がした。

 おっといけないウェインさんは元は男だ。

 でも仲間として認めてくれたんだよな?

 ウェインさんの話し相手から仲間に昇格されると俺の世界に戻るのはいつになるやら…。

 とりあえずウェインさんを起こさなければならない。

「ウェインさん。いつまで寝てるんですか?もう朝ですよ。寝るなら自分の部屋に戻って寝て下さい」

「う、うーん。あと15時間19分14秒寝かせてくれ」

「寝すぎですよ。っていうか秒単位で寝かせてくれって言う人初めて見ましたよ。いいから起きてください」

「ん、おお。山城か。まだ飲むか?」

「ぶっ続けで飲み会されたらたまりませんよ。もう朝ですよ」

「おっ、もうそんな時間というか朝か。昨日は楽しかったな」

「ウェインさんどんどんお酒飲んで酔っ払っては絡んでくるんだからフルーツジュースの俺はちょっと対応に参りましたよ。うちの親だってこんなに飲みませんし、酔いませんよ」

「そうか、山城の父に勝ったという事か」

「変な達成感を体験しないでくださいよ」

 とりあえずウェインさんをベッドから離すとおぶって部屋まで運ぼうとした。

「山城。歩けるから大丈夫だ」

「本当ですね。ウェインさんの大丈夫だは8割方安心できそうですからね。下ろしますよ」

「やっぱりこのままでいい。なんか優越感に浸れて面白い」

「はい。下ろしますね」

「ぐぬぬ」

 ウェインさんを下ろすとノックが聞こえて、ドアを開けたらシフォンさんがいた。

「おはよう山城君。昨日は眠れたかい?」

「ウェインさんと飲んで付き合わされてたらあんまり眠れませんでした」

「そうか、2人はそれほど仲が良くなっているんだな。もう立派な仲間じゃないか」

「それは違うぞシフォン」

 ウェインさんが下ろして倒れ込んだ床から起き上がって話した。

「山城は話相手から呼ばれてきた。異世界で出来た友人だ」

 この言葉に俺はグッとくるものがあった。

 友人ってこういう関係を言うのかな?

 今までノートの貸し借りしか出来なかった友人関係の俺が初めてそれ以上の友人を得ることが出来たんだ。

 俺は友人を持ったんだ。

「ただ…」

 ウェインさんはニヤリと笑った。

「これからの付き合い次第では恋人になるかもしれないぞ」

「そうなのか、なんか複雑だが2人はそんな仲になっていたのか」

「シフォンさん納得しないでくださいよ」

「違うのかい?」

「俺には友人関係の方がずっと健全で良いですよ」

「山城がそういうならそれでもかまわんが、今後どうなることやらわからんぞ」

 この分じゃ俺の世界に帰るのは当分先だな。

 それにウェインさん不穏な発言してたし、なんとかしなくては。

「2人に言っておきたいことがあるんだ。怪盗ルブジオンを捕らえた功績として国民の前で表彰式をやりたいんだけど時間空いてるかい?」

「えっ?」

 シフォンさんが言った言葉に俺は動揺していた。

 何せ大勢の前で表彰されるなんて今までなかったことなのでどうしようかと悩んでしまった。

「そこまでされるとかえってうっとおしい。表彰は無しにしてくれないか?」

「ウェインがそういうなら」

「待ってください!やりましょう、表彰式!」

「むっ、山城がいつになく熱いな。それなら私も賛成だ」

「そういうことならさっそく今日の昼にやろう。準備はもう出来ているんだ。時間になったらまたここに来るよ。それじゃあ」

 シフォンさんがそう言ってドアを閉めるとウェインさんは俺にもたれかかった。

「表彰式なぞかったるいだけだぞ」

「ウェインさんは英雄だからわからないだけですよ。俺は今まで表彰されたことなんて一度も無いんですからね」

「そうなのか、なら興奮するのも無理はないな。山城は友人な訳だし付き合ってやるか」

 こうして俺とウェインさんは国民の前で表彰されることになった。



 多くの国民の歓喜の声とともに初めて会う国王から賞状を貰った。

 俺の世界に持って帰れるものが地図以外に出来たので嬉しかった。

 表彰式が終わった後でシフォンさん達と兵士たちが城でパーティをしてくれた。

「ウェイン。旅ばかりしてないでいい加減ストーンカ国の政務を手伝ってくれないか?」

 キースさんがそういうとウェインさんは嫌そうな顔をしていた。

「だが断る」

「ウェインさん少しくらい手伝ってあげたらどうですか?ここなら話し相手に困らないと思いますよ。俺を呼んだ理由だってそれなんですし」

「しかし山城と一緒にいるのは楽しいんだ」

 これが友人との良い関係っていうのかな?

 でもウェインさんには気の毒だけど、俺もそろそろ俺の世界に帰りたい。

「俺も一度俺の世界に帰りたいですし、しばらくストーンカ国にいてくれませんか?」

「私が呼んだらすぐに来てくれるなら約束しよう」

 呼ぶも何も強制で召喚されるんだけどな。

「わかりました。約束しましょう」

「そして山城の世界にも行きたいのでその時は来るからな」

「あんまり派手なことしないのならいいですよ。俺の世界ではシルビアさんって偽名を使ってくださいね」

「それだけでいいならさっそく遊びに行こう」

「今日だけは我慢して下さい」

「ぐぬぬ」

「ぐぬぬじゃないですよ。俺の立場も考えて下さいね」

「わかった。山城がそう言うなら今日だけは我慢してやる。友人だからな」

 明日来る気満々だなこりゃ。



 パーティが終わってウェインさんに元の世界に戻す魔法を唱えてもらって俺は俺のいた世界に久しぶりに戻ることになった。

 日付を見るとウェインさんが俺を異世界に引き込んだ時間に戻っていた。

 机にストーンカ国で貰った賞状と市場で買った地図を閉まった。

 明日ウェインさんは来るだろう。

 また色々あるんだろうけど俺には異世界で出来た友人がいる。

 この関係は大人になっても続くんだろう。

 俺は明日の学校に行く準備をして、布団についた。

 そのまま目をつぶって寝た。



 あれからウェインさんとは週に4、5回会うようになって、俺の世界に来たり、ウェインさんの世界で旅をしたりしている。

 ストーンカ国にはまた旅に出ると言って旅をしているらしい。

 何でもコリーア大陸の秘境を探しているらしい。

 その秘境にはめったに出来ない体験が出来るとかでそれが何かわからないのに行きたいらしい。

 学校の中間テストを終えるとウェインさんの声が聞こえた。

(山城。今日は山城の世界で遊びたい。あのコンビニ以外の場所を探索したい)

(いいですけど、変なことしないでくださいよ)

(大丈夫だ。この前行ったファミレスは楽しかった)

(ウェインさんがウェイトレス呼ぶブザー連打するから怒られたじゃないですか)

(すまん、珍しかったので)

(今度はどこ行きたいんですか?)

(あの遊園地という遊び場に行きたい)

 傍から見たらデートか女友達と遊んでいるように見えるな。

 今月小遣いあったっけ?

(ちょっと財布と相談しますね)

(無理なら別にいいんだぞ)

(お金に余裕あるんで遊園地行けますよ)

(それなら家についたらそっちに来るからな)

(玄関から来てくださいよ)

 俺とウェインさんの関係は変わらない。

 今もそしてこれからも…俺とウェインさんは異世界で出来た友人なのだから。

 でも恋人になったらどうしよう…。

 そんなことを思いながら俺は帰り道を歩いていった。

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