異世界で出来た友人

第44話

「山城。終わったぞ。もう目を開けていいからな」

　ウェインさんの言葉と同時に俺は目を開ける。

「ウェインさん俺にどんな魔法をくれたんですか？」

「相手の動きを一時的に止める魔法だ」

「かなしばりの術かなにかですか？なんでそんな魔法を？」

「相手は怪盗ルブジオンだ。彼は今までの事件で捕まえることができなかったと言われている。この魔法で山城が動きを止めて私が彼を捕らえれば解決だ」

「この魔法ってウェインさんも使えるんでしょ？」

「もちろんだ」

「ならなんで俺に覚えさせたんですか？ウェインさんが使って捕らえればそれでいいのに」

「その魔法は使っている間は自分もあまり動くことができない」

「なんかあまり意味のない魔法ですね」

「だが２人で援護という形で使えれば役には立つ」

「それは確かにそうですけど、上手くいきますかね？」

「大丈夫だ。ちなみに唱えるときは両手を上にあげてストップっと言って唱えればいい」

「なんか想像しただけでシュールなポーズですね」

「ちなみに山城に与えた魔力のキャパシティから１回しか唱えられない」

「ぶっつけ本番ですか」

「そういうことだ。安心しろ相手の隙を付けば成功する」

「今まで捕まらなかった怪盗に隙なんてあるんですかね？」

「どんな人間も隙は生まれるそこを待てばいいだけの話だ」

「納得しときましょう」

「それでは夜になるまで客室で休むか」

「そうですね。俺の部屋使いますか？」

「何を言っている私は女になったんだぞ。別室に決まっているだろう」

「さいですか」

　野宿の時は同じテントなのに理不尽だ。

「それじゃ夜になるまで俺は部屋でおとなしくしてますよ」

「私はシフォン達と話でもしてくる」

　そう言ってウェインさんはシフォンさん達のいる政務室に入っていった。

「シフォン昔話でもしよう」

「ウェイン。今は政務中だ。後にしてくれ」

「ならクリスかノヴァの相手でもしてくる」

　そんなやりとりがドアから聞こえてウェインさんがこっちに戻ってきた。

「なんだ山城。まだいたのか」

「まだって２、３分も経ってないですよ。仕事中に話しかけるのはまずいと思いますよ」

「他のやつなら暇つぶしの話し相手になるだろう」

「みんな政務や警備で今は忙しいと思いますよ」

「それなら山城と話すしかないな」

　これだよ、ジェネレーションタワーの時から変わってないウェインさんの話をしたい願望。

　俺っていつまで経ってもウェインさんの暇つぶしの話し相手になっちゃうんじゃないか？

「山城の部屋で話そう。部屋まで案内してくれ。あとメイドに頼んで茶菓子を出してもらおう」

「なんだか長い１日になりそうだなぁ」

「何か言ったか？」

「別に、ただ長話の相手の身になると時として不憫だなっと思っただけです」

「今更何を言う私と山城の仲ではないか。迷惑な訳なかろうに」

「ウェインさんは自己中で幸せな方ですね」

「意外と充実しているようで不完全燃焼だからそれは違うぞ」

「俺も今同じ意見が言いたいですよ」

「山城。通路で立ち話もなんだし、早く部屋に行こう」

「わかりました。わかりました急がなくても部屋は逃げませんよ」

　俺とウェインさんは俺の使っている部屋まで移動した。

　部屋に入る前に通路で通ったメイドにウェインさんが茶菓子を出すことを言ってウキウキしながら俺より先に歩いて部屋に入った。

　部屋に入るなりウェインさんは俺のベッドにダイブした。

「何しているんですか？」

「友人の部屋に入ったらこれをやると山城の世界の漫画で描いてあったぞ」

「それやるとベッドが痛むんですから止めてくださいよ」

「そうか、すまない」

「やっちゃったことはもう仕方ないですし、ウェインさんですから何かしでかすかと思いました」

「人を問題児扱いするのは頂けないぞ」

「はいはい…あつ、そういえば気になってたんですけど」

「何だ？」

「シフォンさん達の出会った経緯とか聞きたいですね」

「なんでそんなことを聞く」

「だってウェインさんみたいな人に付いていった仲間だからさぞかし苦労したエピソードとか理不尽な出会い方をしたのかと思いましてね」

「至って普通の出会い方だぞ、聞きたいか」

「長くならない程度の範囲なら」

「まずノヴァからだがあいつカトルオクス島っていうこのコリーア大陸の中央に浮かぶ島で出会った。気候の暖かい島でな、島に眠る遺産を巡ってライバルとして競争していたのが出会いの始まりだった」

「遺産ってどんなものですか？」

「大昔に人間が邪悪で強い魔竜と戦った時に使った武器や魔術書だ。売れば結構な値になるし、持っていれば強力な力も得られると言うことが古い文献に書かれていた」

「強力な武器ですか。マナの剣みたいなものですか」

「よく知っているな」

「この城の図書館で読んだんです。この国を作った人がジェネレーションタワーから持ってきたとか書いてありましたね。あれと同じくらいの強さを持った武器ですか？」

「そのマナの剣とは比べ物にならないと書かれていたのだが、島の遺産はほとんど無くなっていてあったのは大剣だけだった。その大剣を今のノヴァが使っている。たぶんあいつも私の次の次のそのまた次の次くらいに強いぞ」

　遠まわしに自分のこと強いって自慢してないだろうか。

「なんでもあいつ昔は盗賊だったんだ」

「ノヴァさんが？信じられませんね」

「家が貧乏で生きていくために盗みをしていたらしい。それが目立って罰として島流しにされて私と出会ったのだ。遺産を売れば金になると最初は考えていたらしいが、私と行動を共にしてだんだん冒険者として生計を立てていくことを覚えたら大剣を見つけた時には既に冒険者として一緒に旅をすると言って今の関係になっている」

「ウェインさんが更正させたような話ですね」

「性格は昔は生意気な感じだったが今は丸くなったものだ」

　ウェインさんが話をしているとドアからノック音が聞こえた。

　ドアを開けるとメイドさんが茶菓子と紅茶を持ってきてくれた。

「山城。話はひとまず止めて、紅茶を飲むか」

「そうしましょう」

　俺は机に置かれた紅茶と茶菓子を見てそう言った。