第37話
朝目を覚ますとそこは俺の部屋のベッドでなくテントの中だった。
そうだ。俺はウェインさんの呪いを解く旅をしなくちゃいけないんだ。
「起きたか山城。朝ご飯はスライムのシチューとオークのステーキでいいな?」
ウェインさんに声をかけられて俺はテントから出た。
ウェインさんは調理中の様で異空間から材料を取り出していた。
「ステーキって…朝から重いもの出しますね」
「他に調理できる材料が無かったのもでな。今度の料理の時は旅の途中に椎茸でも取って来よう」
「そうしてください」
俺とウェインさんはそんなやり取りをした後で朝食の準備に取り掛かった。
※
「ごちそうさまでした」
「山城。このステーキ意外と旨かっただろう?」
「はい、ステーキなのに油がそんなにのってなかったですね。オークって脂っこいものだとばかり思っていましたし」
「見ると食べるとでは大違いという事だ」
「それを言うなら見ると知るでは違うでしょう」
「いいじゃないか別に間違ったって、さっ、片付けるぞ」
俺とウェインさんは片付けをしてテントもたたんだ。
「ウェインさん異空間出してくださいテント片付けるので」
「うむ、わかった。でやっ!」
「かけ声かけなくても出せるでしょ」
「気分で言ってみただけだ」
「さいですか」
片付けが終わって旅の準備が出来た時にふと思ったことをウェインさんに言った。
「ウェインさんの異空間って馬とかいないんですか?」
「いないぞ欲しいのか?」
「歩くより楽な気がしたので、もしあれば出して欲しかったのですが」
「無いものはない。代わりに肩車してやろうか?」
「そこまでしてもらわなくていいです」
「そうか。それじゃあ歩くぞ山城」
大草原の中を歩いて行くのは開放的な気分になるが、それも数分歩いただけで気分はちょっとブルーになった。
何せどれだけの距離があるかわからないし、町があるのか不安になったからだ。
「ウェインさん次の街までどれくらいかかるんですか?」
「そうだな。このあたりは旅したことが無いのでわからないがいつか着くだろう」
「いつかってそんな無慈悲な…これで毎日大草原だったら俺確実に病みますよ」
「わがまま言っても仕方ないだろう。初めて行く場所なんだから私にもわからないわけだしな」
「未知のエリアですか。この先やってけんのかなぁ」
「山城。弱気はいかんぞポジティブに考えなければならない」
ウェインさんが胸を張ってそう言った。
胸が強調されて目のやり場に困るが慰めているつもりなのだろう。
「わかりましたよ。最悪今日は昨日と同じテントで料理コースなのは確実と思って歩きますよ」
「モンスターも出るかもしれないので気を付けておくんだぞ」
「ウェインさんの魔よけの術とかで寄せ付けなければ大丈夫でしょう?」
「毎日出していたらこっちの体がもたない。旅の移動中は勘弁してもらおう」
「わかりましたよ。戦闘になったら俺は自分の身を守るのが精いっぱいなのでいつも通り瞬殺してくださいね」
「瞬殺とはなんだ山城」
「一瞬で相手がやられるって意味ですよ」
「そこまで強いとは思っていないぞ」
「強い人はみんなそう謙虚に言うんですよ」
「そういうもんなのか?」
「そ、そうだと思いますよ」
いまいち自信がないがニュースとかでは凄い人達はそんなコメントを残している気がしたのでそう言った。
実際ウェインさんは強い。俺なんか到底及ばない所にいる。
あのジェネレーションタワーっていう長い塔を登った人だし、相当強いそれも選ばれた者の強さを兼ね備えているだろう。
まさかそんな人が話相手が欲しいだけって理由で俺を呼ぶなんて変わっているとしか思えなかった。
話友達って言うのは友達に入るのだろうか?
俺学校で友達なんてノートの貸し借りしかしない程度の間柄だし、ウェインさんみたいな友達が異質なんだよな。
そう思うと複雑な思いだ。
「山城」
「なんですかウェインさん」
「あそこにモンスターがいる戦わなくてはならない。戦闘の準備をしてくれ」
ウェインさんが指差した方向に確かにモンスターはいた。
スライムっぽいやつとゴブリンに小さなドラゴンが数匹ずついた。
「向こうがこちらに気付く前に奇襲をかける。山城は後からついてきてくれ」
「解りました。一応剣抜いておきますね」
俺は剣を抜くとゆっくりと構えてモンスターの方に歩いて行った。
ウェインさんも剣を出して俺より先にモンスターの群に走っていった。
戦略なんて考えなくてもウェインさんがどうにかしてくれるのだから楽なものだ。
ウェインさんがドラゴンに斬りかかり、俺はゴブリンとスライムに注意しながら相手との距離を詰める。
足手まといとはいえ少しは戦力として頑張らないとウェインさんが万が一ピンチになった時におしまいだからだ。
飛びかかるスライムを上手く回避。
そのままゴブリンに向かって斬りかかる。
ゴブリンがこん棒でガードすると剣の切っ先がこん棒に食い込んではずれなくなってしまった。
急いで抜こうとすると後頭部にバットで殴られたような衝撃が走った。
焦って抜こうとしたら後頭部をもう1匹のゴブリンに殴られてしまったようだ。
「あっ…ぐはっ」
視界がぐにゃりとして気分が悪い。
立っているのがやっとの状態で後ろのゴブリンに剣をでたらめに振り回した。
顔に水っぽい感触がぶつかる。
スライムに顔面を直撃されたようだがこのまま顔面にスライムが張り付いていては窒息で最悪死んでしまう。
何とか素手で剥がそうと剣を離して引き抜こうとするが力が入らない。
(このままじゃ死ぬ)
そう思った時に気絶して俺の意識はそこで途切れた。
※
「気がついたか山城」
「ウェインさん俺はいったい…うっ、頭が痛む」
どうやらウェインさんに膝枕している状態で頭に魔法かけられているようだ。
「勝ったんですか?」
「ああ。駆け付けた時は死にかけの山城がいたのですぐに周りのモンスターを倒した」
「俺、助かったんですね」
「まだ動いては行けないこのまま休んでいろ」
ウェインさんの太ももの感触が柔らかいが元は男だ動揺してはいけない。
お互い沈黙もアレなので俺から何か話題を振ることにした。
「ウェインさんは相変わらず強いですね」
「山城も日増しに強くなっているはずだ」
「はずですか…その割には酷い戦闘だったと自分でも思います」
「誰だって最初はそんなものだ。最初の頃を思い出してみろ。エリザベート殿とアルフレッド殿の時よりは強くなっているはずだ」
「あの頃とあまり変わってない気がするんですがそれはどうなんでしょう」
「見えないところで地味に成長するものだ。あの頃よりは強くなっているはずだ」
「やっぱりはずなんですね…」
俺はがっくりとした気持ちで膝枕をしながらウェインさんの顔を見ていた。
黙っていれば美人だし、これで元が男じゃなければ付き合えるのにな。
そんなことを思いながら傷が癒えていった。
魔法が効いてきたのだろう。
「もう大丈夫ですよ。旅を続けましょう」
「うむ。そうか、ではあそこのゴブリンの死骸から剣を抜いて旅の再開だ」
俺は立ち上がるとゴブリンのこん棒に刺さった剣を抜いてウェインさんの歩く方向に付き添って歩いた。
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