第6話

 俺が学校に行く前にウェインさんに話をする。

「もう帰ってくださいよ」

「すまない」

「ウェインさんはジェネなんとかタワーってところで頂上目指すって目的あるの忘れてると思いますから」

「ジェネレーションタワーだな」

「どっちでもいいですよ。もう充分話はしたと思いますよ」

「それもそうだな。わかった、そろそろ私は塔の頂上に登っていくことにするよ」

「はい、それでお願いしますよ」

「また暇になったら脳内に直接呼びかける」

 そんな魔法まであるのか。

「俺が授業中とかには止めてくださいよ」

「できるだけ努力しよう。ではさらばだ」

 ウェインさんはそういうと魔法を唱えて、体が光に包まれると同時に消えていった。

「さて、学校行くか」

 俺は制服に着替えて、鞄を持ち学校に行った。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、そういえばウェインさんはどうしたの?」

 母さんがするであろう質問を当然のようにしてきたので俺はとりあえずの嘘を言った。

「早起きして帰っちゃったよ。朝飯も食べずにね」

「あら、そうなの。そういえば朝ごはん食べてないわね」

「いいよ。朝のマクドナルドで食べていくから1000円頂戴」

「はいはい、マクドナルドもほどほどにしないさいよ。朝早いなら朝食も食べれるんだから、あなたがいつもギリギリだからいけないのよ」

「うるさいなー。たまには早起きするってじゃあね」

 ここからはいつもどうりの日常だった。

 朝のマクドナルドでハムエッグハンバーガーとアイスコーヒーにポテトを頼んでそれを10分ほどで完食して、学校に歩いて行く。

 電車通勤じゃないのが幸いだし、学校は意外と近いので俺はいつも遅く起きる。

 今日は昨日のウェインさんの事もあって、あまりに遅すぎたので朝マックになったが、いつもは家で朝食を食べている。

 途中のコンビニでウェインさんのことを思い出し、昨日の事は現実で起きた事を改めて感じて苦笑いした。

(あのコンビニにはしばらく寄れないかもなー)

 そんなことを思っている間に学校に着く。

 クラスでノートの貸し借りする奴と最低限の挨拶をし、ホームルームで担任のつまらない上にすべりもしない冗談らしいものを退屈な顔で聞き。

 クラスメートとの薄っぺらい会話で友情ごっこを演じる。

 どうせこいつらはノートの貸し借りだけの関係だし、卒業すればもう会うことも再会したがることもないだろう。実に無駄な時間だ。

 そして退屈だけれどもやらなきゃいけない1時間目の授業を受けていた。

 授業を受けている最中にウェインさんは今頃塔を登っているんだろう。

 便利な魔法があるし、戦闘とかは見た事ないが闘神とか言われていたんだろうし、問題なく進んでいるだろう。

 先生がここは試験に出るかもね、なんてお気楽なことを聞きながらノートに単語や年号を書く。

 いつもどうりの普通の授業。

 成績は悪くはないが良くも無い俺。

 モンスターや変な塔も無いのがきっと幸せな事なのだろう。

 モンスターはここでは進学とか試験とかそういうのが俺達の世界のモンスターになるんだろうな。

 そのモンスターを倒して親に褒められたり、変なプレッシャーをかけたりする。

 現実のモンスターは異世界のモンスターなんかより平和だが性質が悪いものなのだろう。

 ウェインさんはモンスターとは肉体で戦っているわけだから、俺とは別の意味で大変なのだろう。

 昨日は普通では出来ない体験をしたのに日常に戻るといつもより落ち着いている自分がそこにいた。

 そして世界史の授業を受けている時にウェインさんの世界は戦争はあるのか気になってきたが、他所の世界の事だし忘れるように努力していたら、頭からウェインさんの声が聞こえてきた。

(山城。大変なことが起きた)

 例の脳内に呼びかける魔法だろう。どういう原理かは知らないが声は頭にはっきりと聞こえていた。

 俺は同じようにとりあえず脳内で声をかける。

(何ですか今授業中なんですよ)

(991階に行ったんだ)

(おめでとうございまず。では、俺授業なのでもう話しかけないでくださいね)

(そしたら呪いの魔法にかかった)

(それは悲惨でしたね)

 俺は他人事のように答えて、世界史の授業を受ける。

(呪いで背の小さい女になってしまったんだ)

「えっ?」

 思わず声が出てシャーペンを机から落としてしまった。

 みんなが一瞬注目するが、シャーペンを落としたことだと解るとすぐに視線を戻して授業を受けていた。

 俺はシャーペンを拾いながら、ウェインさんが女の子になってしまった事をシュールで笑いを抑えつつもどうしようかと思った。

(顔がウェインさんのままだったら笑えるな)

(山城。顔も別人なんだ。今聞いている声も変化しつつある)

 言われてみればウェインさんの声はだんだん少女の声になっていた。

(とりあえず屋上で話そう)

(嫌ですよ。塔登ってくださいね)

(むぅ…)

(頂上登ったっらまた話しかけてください)

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