57_MeteoriteBox_17
――あなたのやりたいことだけを試して颯爽と立ち去れば良い。
深層藍銅色の燐光。
部屋の外へ出ると、ジェミーがいな……いた。足元にいた。緑の粒子になって目の高さに浮いているのかと思ったら。通路側でなく部屋側の壁に背を付けている。私と空き瓶さんがどれだけの時間話していたのか分からないが、ジェミーを待たせてしまったのは事実。怒っているかもしれない。通路に一歩出て振り返って屈んで表情を――
(……おっと)
ピンクの角丸枠をした黒い画面には緑の横線が二本だけ映っている。そう、寝ているような顔になっている。でもジェミーって眠るんだっけ? 眠るかもしれないけれどその時は何となく顔が非表示になるような? まさしく電源を切った状態のテレビのように。つまり私はジェミーが“寝たフリ”をしているのではないかと疑っている。
{……}
「……」
そろそろ突っついてみようかな。
{……寝たフリジェミ}
当たり。横線二本が縦線になった。
「ごめんジェミーお待たせ」
{いいジェミよ。収穫はあったジェミ?}
「……うん、とっても。少しこの世界のことが分かったし、見えるものが広がった上で何を見ればいいのかまた絞れたような気がする」
颯爽と立ち去れるように。ね。
{それは良かったジェミ}
ジェミーの“おすすめの場所”はやっぱり流石だ。空き瓶さんとジェミーの間で事前にどんな交流があったのかはさておき、私にプラスの効果があったのは疑いようがない。
{……}
ん、ジェミーが寝たフリではなく一瞬私を見たまま固まったような。それから吹き抜け空間の向こうの方を見た。なんだろう。
{次はハルカの行きたいところに行くジェミ?}
「……えっと、そうだった。セントラルに行っていい?」
もっと時間のある時に来いと書かれたモニュメント。あれを確かめに行きたい。
{分かったジェミ}
ジェミーは手足耳付きテレビの姿を解除し私の手に戻った。次の目的地は私しか知らないので緑色の案内矢印は出ていない。そうだ、時間は? ジェミーはそれなりの数字を返して見せた。
一度だけ閉じたドアに振り返り、深い青色を内に秘めた細長いオフィスビルに別れを告げる。
/* * * *
入射角と反射角が手を取って描いた先には光源が見当たらなかった。
あなたは特別なのか。あなたの瞳には微かに深い青色をした光が宿っている。
誰かが、と言ってもこのタイミングで思考できる者は限られているが、その問いかけを秘めたままとした。
* * * */
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