第24話「うらやましくなんかない」他に考えることいっぱいあるだろ…?

5月1日

今日はなかなかのお天気。


ご飯は食べたし、散歩も適度にしたし、それもニャンコと一緒。


うーん、気分が良い。


と思ってたら、祖母が玄関わきの側溝を掃除しだした。


最初音がカサコソシャリシャリ、するんで窓からのぞいたら、水色の軍手をして、ビニール袋を片手に側溝に腕を突っ込んでいた。


えー!?


どうしたらいいかわからないよ。


そんなことしなくていいよ、と言うべきか?


祖母は気になるらしいが、毎月一回父が来て掃除してゆくのだ、月一で平気なんだよー?


それにわたくしが幼い時は、庭なんて荒れ放題のびんぼーぐさだらけだったもんね。


草むしりしてると、たまに三つ葉とかシソの葉が混じってて、摘んできては季節のお吸い物とかてんぷらにしてもらった。


祖母が、明日は庭を芝刈りするわっていうから、またえー!?


放っておいても全然平気だよ。


イチゴの苗のよこのびんぼーぐさは気になるけど、無理に引っこ抜いたら苗まで抜けてしまって……あんまりいいことにはならない。


五月に入り、チューリップは季節が終わり、シャクヤクのつぼみがたくさんついて、カサブランカがにょきにょき太陽を目指し始めた。


雑草はびんぼーぐさくらいなんだけれども、根っこが他の球根などの根に絡んでて用心しなきゃならない。


うちにきて何日だ祖母? 十日? そんな人の家の庭掃除なんてしなくていいから、いっそ座って本だけ読んでて、ってなくらいである。


良い陽よりにのんびりしてたら、そばでさかさかやられて、気分台無しなんである。


どうしてじっとしてられないのか? 仕方がないから、母の分、自分の分、家じゅうの分、三回洗濯機を回して、干し物をした。


なかなか乾きが良いようである。


そこでも祖母が、



「良く乾くように」



っといい、なぜかわたくしの干し物をべろーんとのばしてしまったのだ。


部屋に取りこむとき引きずるし、変なところを洗濯ばさみではさむと跡になるから、気をつけてるのに、びろーん、である。


自分の尺度で考えないでほしいな。


スウェットのゴムが傷むではないの。


やりなおしである。ふう……。

     ☆☆☆

雑談の効能について、少し耳にしたことがある。


人がよく集まり、雑談をするところでは発明家や天才が生まれやすい。


関西ではそのような傾向が強く、関東などではあまりないと。


これは雑談がなんの制限もなく、いろんな方向へ転がっていく、そんな環境では人々のアイデアが出やすく、刺激もおおいに受けあうということだと思う。


さて、今日の雑談。


女三人寄れば姦しい。


今年の恵方は北北東(?)だった。妹が息子たちを連れて母の「ろいやる」な巻きずしを食べたが、子供用に小さめのを別に作ってやらないと苦しいだろうとの意見が出た。


節分の鬼役は母だった。鬼には「鬼は外」と言って豆をぶつけるが、わたくしは園児の頃に憶えたので、「福は内」と言いながら家の中に豆をまいてしまう。いまさらだが、節分の行事は各地方により作法が異なると聞いた。いっそのこと節分のガイドブックを作ってくれたら喜んで読む。


ヤメチャは八女茶と書く。とにかくいい香りのするお茶で祖母のお気に入りなのである。熊本から避難する際に、おかしとお茶を大事に持ってくる祖母の感覚はわからないが、風流人ともいえる。昨日はサラダせんべいは亀田がおいしい気がするから(亀田がいい)と言いました。「かめだのあられ、おせんべい♪」とCMソングまで歌ってくれた。こだわるなあ。


わたくしのお気に入り茶店の「ルピシア」では若い子がお茶を楽しんでいる。



「あのお茶、おいしかったのに、今置いてない。なくなっちゃったの?」


「えー? 好きだったのに……」



だなどと女子高生が会話しながら、サンプルの香りを香物のように利いているのを見て、わたくしも飲んでみたかった……気に入ったものはその場で入手せねばだめだ、と思ったのを、母と祖母だけにぼやいてみせた。


今はダマスクスローズの緑茶と紅茶らしきものが同時に売りに出されていたから、買ってこようかと言うと「紅茶」の方が良いと言うので、頭の中の欲しいものリストに入れておく。


そういえば祖母は、こちらの地元で茶道をたしなんでいた。


今度、お師匠さんに挨拶に行こう。と、いう話になったのだが。


ミドルクラスからアッパークラスに引っ越したことについて、なにか言われはすまいか、心配である。


ミドルクラスはミドルクラスなりのプライドが高いおうちで、祖母はおそらくいじめかなにかを受けたらしいと推察する。


あれから二十年、茶道の先生はどうしているのか? 祖母は楽しい顔をしているが、微妙にご近所なだけにわたくしは剣呑に思う。


正直アッパークラスは楽しい。


みなさん、分別もあり、上品で変ないじめなどない。


友人は「お金持ちも言うよ『もってないくせに!』って……」


という話をしてくれたが、とても考えられない。


お金持ちはお金持ちなりにコンプレックスがある。



「この人は周囲に気を遣うあまり、お土産代などで散財してしまった。申し訳ない」



という……。


逆に貧しき人は、自分のためにだけお金を使う人に対しては、



「無駄遣いをして!」



と思うものらしい。


他人のお金に関心を払うのは、あまりたしなみがよろしくない。


いかに勉強ができようと、仕事ができようと、たとえ人の上に立つ身だとしても。


そうも卑しく親が育てたのかと、疑われてしまうではないか……。


まあ、将来バリバリ働いて、自分で自分のおもちゃを買えるようになったら、気持ちも変わるさ。


収入があろうがなかろうが、みんな生きる上で大切にするものがあるので、生活が豊かかどうかは必ずしも財産だけにはよらない。


資産を相続したって、税金はなくならないし、なんやかんやでだいたいが吸い取られていくものなんだから、うらやましくなんかない。

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