第6話 悪魔みたいな怜悧、翻弄される僕……
夏期講習5日目、僕の献身的看護によって怜悧は見事に復活した。元気はつらつすぎて、あのベッドで頼り なげだった姿は全くない。
それどころか朝から力づくで女子トイレに連れ込まれ、その、あの……。
「な、なにすんの!?」
「今朝ね、起きたらすっごく楽しいこと思いついたし、ふふふ」
怜悧に渡されたのは楕円形の小さなツェッペリン号の形をしたプラスチック、色はピンク。
「な、なんだよ、これ!?」
「いいから早くぅ。早くしろ! 犬」
怜悧はそれを僕のデニムのあそこの、つ、つまりアンダー・ボ-ルに突っ込めと言う。
「こ、こうかよ……」
「よし、ふふふ」
女子トイレからやっと解放された。
廊下、振り向くと怜悧がにやけてる。手になんか持ってる。
『ウイーン、ウィーン、ウイーン、ウィーン』
「うわあ……」
思わず声が漏れた。し、し、振動する……。
「トビッコって言うんだよ、これ。童貞君は知らないだろ、むふふ」
あの時のずるがしっこそうなあのにやけた怜悧の顔……きっと一生忘れない。
「なんだよ、これ! もうやだよ」
「勝手に外したら許さないから! いい! 確認しとく。命令には絶対服従。もちろん、無条件でね」
風邪引いてればよかったのに……あおのしおらしい怜悧はどこいっちゃったんだ?
結局、薬局、夏期講習の間中、僕はそのトビッコってやつに苛まれつづけた。怜悧は片手でリモコンを操作して僕をいたぶるのが楽しくてしょうがないって感じ。風邪が治って本性剥き出し、全開の怜悧なのであった。
「うわっ! 止めてったら……なんでこんな人ごみで動かすんだよ!」
「勝手にいっちゃたら絶対許さないから! 一生それ付けさせてやるから!」
渋谷、ハチ公前のベンチに僕は座らされ、怜悧はといえば離れた向かいのベンチからリモコン操作してる。
にやけた顔がたまらなく腹立たしい。くそっ! な、なんで僕は人ごみの真っ只中でこんな目に合わされなきゃならない!?
自然に内股になった。動くたびに僕の股間が反応する。
これが噂の羞恥プレイってやつなのか? そうなのか……!?
怜悧の冷徹な瞳が僕をじっと見つめる。股の間に手を置いて必死で我慢する。
股間が張り裂けそうだ。自然にうずくまる僕。怜悧の嘲笑……。
隣の女の子の視線が訝しげに僕を見てるのが分かる。彼女は、僕の異常な動作にそそくさと席を離れる。
夕方の雑踏、人ごみの中で、僕は耐え続ける。トビッコは動いたり、止まったりを何度も繰り返す。
いっちゃいそうになるのを何度もごまかす。勝手にいっちゃたら怜悧になにされるか分からない。なにしろ怜悧は復活したのだ。僕の犬の生活ももちろん継続されるのだ。
「怜悧、待った?」
「ううん、今きたとこ」
ええええ? 倖田啓介!? 待ち合わせしてたのか……?
「ちょっと待ってくれる? TELしなきゃならないとこがあるの」
「ああ、いいよ」
携帯が震えた。身体がびくっと反応する。どっちの振動か分からない。
『先に帰ってて、家には誰もいないわ。わたしの部屋で待ってて、いい、外しちゃだめよ、分かったの犬』
『ひどいよ、なんで先輩と待ち合わせなんて……デートするの? なんで僕が怜悧の家で待ってなきゃ……』
『うるさい! 先輩デートしよってしつこいんだもん。一応、彼はわたしの彼氏のつもりなんだから、仕方ないでしょ。すぐ帰るから……』
僕は結局、置いてきぼりを食らい、二人は仲よさそうに腕を組み、渋谷の雑踏に消えた。
どっから見てもお似合いのカップルに見えた。
長身の先輩は僕よりずっと見栄えがするし、怜悧にはぴったりだった。
僕の知らないところで怜悧はちゃんと先輩と付き合っていたんだ、そう思えた。
怜悧の部屋。相変わらずなんにもない。お馴染のベッド、その上にノートパソ、デコラティブなi-pod、参考 書が何冊かとCIELなんて雑誌まであった。
何日か前、僕はここで怜悧とまっぱで抱き合ったのだ。なんだか数億年前の記憶のような気がした。
手を伸ばすと怜悧の脱いだニー・ソックスに触れた。手に取る……自然に鼻に近づける。ええっ!? なん で、なんでこんなこと平気でできるんだ僕……片方をポケットにねじ込んだ。片方は握ったままだ。
制服が壁にかけてあった。近づいて顔を埋めた。怜悧の匂いがした。思わず股間を押さえた。
鼻にくっつけたニー・ソックスと怜悧の制服の匂いでいきそうになった。
股間にはトビッコが鎮座ましましてる。
勝手にいっちゃたらなにされるか分からない。今日の怜悧はことのほか残酷だ。夏期講習の教室で、渋谷の 雑踏で散々僕を弄んだのだから。
今日はなにされるか分かったもんじゃない。ぞくぞくした、なにされるんだろ?
すっかり夕方の気配、うつらうつらしてたらドアが開いた。
「環ごめーん。先輩付いてきちゃった。早く、早く、ベッドの下に隠れて! 早くぅ!」
なにがなんだか分からなかった。無理やりベッドの下に押し込まれた。
間髪をおかずドアが開く。
「ああ、先輩どうぞ」
「へぇ、これが怜悧の部屋か……お招きに預かるなんて光栄だな」
せ、先輩がなんで!? 付いてきたとか言ったくせに、怜悧が連れてきたんじゃないか!?
ベッドが軋んだ。顔面が押しつぶされそうになり、慌てて横を向くと怜悧と先輩の脚が見えた。
「ふん? どうしたの怜悧ずいぶん今日積極的じゃ、ふわっ……」
脚が消えた。ベッドが更に軋む。
二人がなにやってるのか妄想したら勃起しちゃった。『ウィーン、ウィーン』トビッコが動き出した。
「ふぇえええ……」思わず声が漏れた。だってビンビンのとこにトビッコの刺激が……。
「どうしたの怜悧? いつもならキスだって許さないくせに、今日はずいぶん積極的だね」
「黙って……先輩。こういう日もあるわ……」
「先輩はないよ。啓介でいいよ、怜悧」
ベッドが何度も軋んだ。トビッコが動いたり、止まったりした。
怜悧の着ていたワンピが目の前に落ちてきた。続いて白のキャミソール、そして、真っ白なブラ……止めて! 怜悧、それ以上は止めてください!
「可愛いいよ怜悧。とっても可愛いい……」
「ふうん……先輩、はああ……」
無音……ベッドが軋み続ける。
いきなり僕の鼻面に怜悧の生足……足の指でなんか合図してる……えええ、こ、こんな状況で舐めろって言うの!? 舐めた……股間を押さえつつ舐めた……。『ウイーン、ウイーン』
「うん……だめ、これ以上はだめ……」
怜悧の甘えた声。絶対に僕の前ではしないぶりっこな声色。
「え……。ここまで見せて……怜悧だってこんなに……が、我慢できないよ」
先輩の上ずった声……いったい、どうなってるんだ? うわああ、またトビッコが動いた。くくく……。
「落ち着いてください。ねっ、だってそのつもりじゃなかったし……先輩が部屋見たいっていうから……」
「ごめん。こんな場面で拒否られるって初めての経験だったからさ。怜悧もその積もりなんだとばっかり思 って……」
「普通の子じゃないのわたし。啓介もそこがいいとか思ったりしたんでしょ、違う? だからわたしに付き 合ってって……ここで簡単にしちゃうような子だったら、啓介の周りにうじゃうじゃいる子とおんなじでし ょ? 違う?」
先輩は無言。
「我慢できないなら啓介……口とか手でしてあげようか?」
「……そこまでしてくれるのに、あれはだめなんだね?」
「だめ! 絶対だめ! 今日はだめなの、お願い……」
怜悧がベッドから手を伸ばしブラとキャミを取った。ワンピも着てよ、早く!
「もう帰って……怒ったのなら、それでもいいわ」
「いや、そうじゃないんだ。今日デートしてて楽しくてさ、怜悧が普通の子に見えたんだよ。そうだったよね、僕が怜悧に惹かれるのは普通じゃないんだってこと、今、再確認したよ……」
「それ、褒めてる? 貶してる? どっち?」
「あはは、さあ、どっちなのか僕にも分からなくなったよ。いや、今日はおとなしく帰るよ。そんな姿見て ると自制心がいつまで続くか分からないからね……」
「ちょっと待ってて、服着るから。玄関まで送ってく」
*****
「いいよ、出てきたら……環、出てこいったら!」
ぐずぐずしていたら怜悧に引きずり出された。
「なに、いじけてるのよ! 犬のくせに」
「酷いよ、酷いよ……怜悧って最低だと思ってたけど、最悪だ!僕のいる前でなんでこんなことするんだよ !」
「足、舐めて……」
「ええ!?」
「ほら、犬……舐めて」
ベッドに座った怜悧がほくそ笑んでいた。僕を見る目つきは哀れみ……。
舐めた……我慢できなかった。まるでパブロフの条件反射みたいに差し出された足にむしゃぶりついた。
「さっきまで啓介が舐めてた足よ。それでも舐めるんだ環……啓介の唾液や匂いがこびり付いてるっていう のに我慢できないのね……ふふん」
着ていたワンピースをゆっくりと釣上げる怜悧。にゃにや笑ったその顔が悪魔に見えた。
トビッコが動き続ける。真っ白な太股を舐めている時、それは突然やってきた。
「いっちゃったの?」
「う、うん……」
「可愛いいわ環。ほんとに可愛いい……」
抱きしめられた。僕は泣いていた。なんで泣いてるのか分からなかった……僕は既に壊れているんだろうか?
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