お題:おめでとう、俺は飯テロリストに進化した。

 時計を見る。22時である。

見間違えたかもしれない。もう一度時計を見る。相変わらず22時である。

奇跡的に目にゴミが一瞬だけもぐりこんだかもしれない。改めて時計を見る。22時である。

ならば逆に奇跡が起きるかもしれない。見る間でもなく、22時である。

なお、定時は17時であった……。


「スーパー閉まってんじゃん……こりゃコンビニかなぁ」


誰もいないオフィスで一人呟いた。虚無感……。





「ただいま」

電気を付けながら靴を脱ぎ、思わずつぶやいた言葉に虚無感を煽られる。

帰り道のコンビニでとりあえず買った野菜を軽く床に放り投げ、ついでに自分も床に投げだしてみる。ちょっと小気味よい音と、少しの痛み。ああ、生きてんなー……って感想が出る程度には、元気が残っているようだ。


「ただいま」

インターネットのsnsに呟いてみる。こっちは、ぽつぽつと返事が来た。ちょっと虚無感が減った。


『今日の夕食はなんですか?』

サイトで友人登録をしている女子高生(自称)からのメッセージだ。

「レンコンのはさみ揚げです、と」

『素敵! この間の酒蒸し(でしたっけ?)もおいしそうでした。お婿さんになる人幸せだろうなー』

「未だ見ぬ旦那様のために腕を磨きますよ、と……あ、顔文字もいれとこ」


 そう、何を隠そうこの俺……山崎やまさき とおるは、ネカマである。

最初は……寂しさを拗らせて、「女の子ならちやほやしてもらえるのでは」と始めたが、なんせ友人登録した相手が女子高生だ。分が悪い。そこで「できる女=料理ができる」という深夜のテンションのおかげで、毎晩手料理写真をアップロードすることにしてみたのだ。小さい頃の愛読書が「お料理パパ」だったお陰もあって、料理自体は好きだったから、アップロードするまでは良かった。が……。


 その女子高生、なんでも界隈じゃ有名人だったらしい。彼女が取り合げてくれたことによって、俺の「ファン」もみるみる増加した。虚無感は減ったけれど……手が、抜けなくなった。正直自分用のお弁当とか食えりゃあいいのだが、女性と偽る以上やるからには本気を出さなければいけない。


 凝り性がゆえに、ドツボにはまっている気がする。事実、俺のサイト上の通り名は「飯テロリスト」になってしまっていた――。

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