お題:暴力的チャーハン物理学

「チャーハンは物理学である」


 友人がそう主張し始めたときには、吾輩ついぞ彼の脳みそが限界に達したのだろうと思った。そう思うに十分なほど、吾輩の友人は奇行を上げるにいとまがなかった。先日は「集合的無意識における飛行物体の幻視と、情報操作」だったか。いや、それに比べれば今回の話は規模が小さそうだ。吾輩は欠伸で友人に応えた。


「む、さては興味がないな貴様。いいだろう、貴様が食べたことのないほど素晴らしいチャーハンを調理しながら貴様に語って聞かせてくれようぞ!」


 そういいながら友人はエプロンに手を通す。やる気十分、結構なことだ。


「まず第一に、吟味した材料をフライパンにドーン!」


 ……訂正しよう。規模が違えど友人は友人だ。ざく切りと呼ぶにはあまりにも包丁をないがしろにした巨大なキャベツの塊と、解凍もそこそこな白飯、その他調味料を控えめに……あれはチャーハンではなくキャベツ飯ではないだろうか。

そんな考えも彼には届くまい。鼻歌なぞ歌いながら調理を続けている。吾輩はもう一度欠伸をして、机に頭を乗せる。その間も小難しいことを言いながら、友人は調理を続けているようだ。放物線がどうのとか、フライパンのゆする角度がどうのとか。

……退屈しない御人だこと。


「あ、貴様寝るんじゃない! もうすぐ貴様に究極のチャーハンをふるまってやろうというのに!!」


期待しているよ、友人殿。吾輩は薄目でその様子を伺うにとどめた。彼の機嫌を取るのは面倒なのである。


「……さて、俺の分は後からネギを入れればいいから……」


 昼食一つにどれだけの言葉を費やすのか。学者先生というのは吾輩には見当のつかない生き物のようだ。


「おい、三郎。飯だぞ」


そういって、平皿に小さく盛られたチャーハンを鼻先に置かれる。吾輩は吾輩らしく、小さく「にゃあ」と感謝の意もそこそこに……長く待たされた昼食にようやくありつけるのであった。うむ。先日は香辛料の加減で殴られたような味だったからな。入院した吾輩への気遣いか、コショウも少なめでよろしい。


「ふふ、気に入ったようだな。次はかのユリカ嬢にもこの物理学を披露せねばだ。ねぎとコショウを――」


 ……まぁ、彼女との仲の進展には少し、スパイスが足りないのだろうがね。吾輩は危なっかしい友人殿を少しだけ見つめてから、改めて食事に取り掛かるのであった。

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