秋波を送る

 『秋波しゅうはを送る』とは、女性が相手に気があることを気づかせるために媚びを含んだ目で見つめること。色目を使うこと。

 『秋波』というのは秋の澄み切った波を、美人の涼やかな目許にたとえたところから転じて、媚びを含んだ目つきや色目をさすようになったそうな。


 夫が観ている映画は古いものが多いのですが、昔の女優さんたちの色っぽさってすごいなと思います。気圧されるというか、薄っぺらくない。顔の好みの問題ではなく、蜘蛛の巣にひっかかった虫の気分になってしまう。

 海外作品でも日本映画でも共通してますが、むせるような色香がある方は目の力が強いなぁ。あと、言葉遣いや話し方からしてもう違いますね。


 でも、うちの愛猫たちも負けてはいないですよ。

 夫が帰ってくると、駐車場に車が停まっただけで玄関に走り出します。あとは「にゃあにゃあ」と私には決して聞かせない鳴き声を送り、彼がキッチンに近づくだけで三姉妹全員集合で秋波を送ります。


 そして猫缶を食べたら、はい、解散。


 しかし、次女の『小町』はどうも夫が好きなようで、よく彼にしなだれがかっております。

 『小町』は紐遊びが好きで、夫のスウェットの紐によくじゃれていたことがきっかけで、彼に懐いた気がします。

 それでよく夫に「小町にとってあなたは『ヒモ』なのよ」と冗談を言っていたのですが、実際はヒモ好きよりも愛人体質でした。夫が不在のときは、彼のベッドで丸くなり、彼のクローゼットで眠ります。


 なのに、夜寝るときは三姉妹は私と息子の部屋に全員集合します。私は寝ているとき、東西南北を息子と三匹の猫に包囲されているわけです。

 夫は「一匹くらい、俺と寝ようよ」と声をかけるのですが、さっきまでの秋波はどこへやら。

 そして彼は私に「これで勝ったと思うなよ」と、訳のわからない捨て台詞を吐いて一人寂しく自室で就寝するのでした。


 それにしても、猫って大女優も顔負けの色っぽい動物だと思います。

 しなやかさが美しいし、目つきがなんといっても艶っぽいですねぇ。色目のいいお手本だなぁと思います。

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