一目置く
『一目置く』とは、自分よりすぐれているとして、相手に敬意を表し、一歩譲ること。
囲碁で対局者の技量に差がある場合、劣っているほうがハンデとして何石かの石を先に盤に置くのですが、その石を一目だけ置くという意味からきているそうです。『一目』って視線の目ではなく、囲碁だったんですねぇ。
息子が生まれたとき、三匹の猫たちの反応はそれぞれでした。
長女の『姫』はおそるおそる距離を縮めていくものの、なかなか自分からスキンシップをはかろうとはしませんでしたし、次女の『小町』は完全に無視でした。決して近寄ることはなく、「私、なれ合いはしないの」とでも言いたげな醒めた顔をしていました。
でも三女の『凪』は常に息子のそばにいて、髪を毛繕いしてあげたり、寄り添って寝てみたり、まるで乳母。何もしないけど、乳母。
沐浴のときには必ず私の背後に居座って「にゃあにゃあ」声高に鳴き続けるのです。体を拭いて息子を寝室に寝かせるまで、ずっとうろうろしています。そして息子がベッドに戻ると、安心したように添い寝をするのでした。
その様子は、夫が「こいつは『お風呂監督』か」と呆れるほどでした。
ところが、息子が一歳を過ぎたあたりから、凪の様子が変わってきました。
もともと私にべったりではありますが、息子と私の間に割り込んでくることが増えました。息子に力がついてきたために、乳母からライバルに変わってきたようです。
よく見てみると、三姉妹全員の息子を見る目が変わってきたような気がします。今まで一番下に見ていたものが、少しずつ「かなわんなぁ」という目で見るようになってきたというか。
はて、いつからだっただろう。
そう記憶をたどってみると、三姉妹全員の宿敵に息子が立ち向かうようになってからではないだろうかと思い当たりました。
彼女たちの宿敵。それは……掃除機。
唸る掃除機に逃げまどい、遠目に「いつまでたってもあれには慣れないわ」と苦い顔をする猫たち。
息子も最初のうちは驚いて怖がっていたというのに、一歳になった今では「うおおお」と、果敢に立ち向かい、掃除機をぺしぺし平手打ちしています。挙げ句の果てにコードを掴み、引きずろうとする有様です。そしてそんな息子を驚きの目で見ている猫たち。それか? そのせいで『一目置いた』のか?
三姉妹と息子の力関係、この先どうなることやら。
これから子どもがもう一人増えるので、また関係図が変わってきますが、今から楽しみです。
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