カスタムボディー
この世界では、もはや人類にとって「死」など、怖れるものではない。
人間の脳の電気信号が完全に解明された今、古くなったパーツは取り替えるだけで済むようになったのだ。
四肢は機械で代用され、臓器も高性能のポンプ等があれば事足りる。
脳でさえ、大容量のメモリーチップが開発されて代用可能だ。
だが、こんな世界にも医者は必要なのだ。
ある男は、医者だった。
「今日は患者が来るのだろうか。」
その日も来るかわからない患者を待ちながら、彼は診療所にいた。
待っている間は趣味に興じればいい。それだけで彼にとって有意義な時間になる。
しかし、問題は診察なのだ。
患者自体一日に一人来るか、来ないかなのだが、その患者の症状がなかなかに難しい。
ある日、一人の患者が来た。
「先生、私、なんだかおかしいんです。」
「どうされましたか?」
「胸の辺り…というか、心臓の辺りというか、細かい位置はわからないのだけど、なんだかおかしいの。」
「じゃあ、少し検察してみましょうか。」
彼はその患者の検査をしたが、何もおかしな所はなかった。
「悪いところはありませんね。強いて言えば、人工臓器の相性が悪い可能性がありますね。」
「私、別の診療所でも同じことを言われて、つい先日交換をしたばかりなんです。」
「なかなか相性がいいものが見つからない、ということですか?」
「そうなんです。プロの方に選んでいただいても、すぐにこうしておかしくなってしまうんです。」
結局、彼には何が原因でこうなってしまったのかわからなかった。
その患者には別の診療所へ行くことを勧め、帰ってもらった。
「まったく、どの患者も似たような症状で来て、どれも原因不明なんだからたまったもんじゃない。」
それから、何年も何十年も同じ生活を続けた。
そうしてみて、彼は一つの可能性にたどり着いた。
人類は決して「死を克服」なんてしなかったのではないかと。
「一つだけ替えのないパーツがあった。それは心だ。俺の心が疲れてやっと、この答えにたどり着けた。」
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