暴走元素19番
南高梅
天国と地獄
天国というのは、云わば『魂の休憩所』だ。
安らかに過ごせる環境で、転生の時を待つ。
地獄というのは、『魂の説教部屋』だ。
過酷な環境で過ごし、反省し、魂を浄化し次の転生を行う。
天国で過ごした者は「また次もいい人生を歩めますように」と希望を持ち、地獄で過ごした者は「次はこんな所に送られないような人生を過ごそう」と反省し、それぞれ新しい人生を歩む。
だが、最近、このサイクルに乱れが生じているようだ。
今までなら「もう二度とこんな所に来ずに済む人生を送ります」と言って転生していった魂達だったが、最近何故か「また来ます」という魂が増えている。
地獄はその名の通り普通なら長時間いたくない場所だ。
ここには火山性のガスが充満し、鬼が沢山住んでいる。大地は荒れ果て作物は実らない。実るのは荒れ地でも育てることができる小麦のみだ。美しい女が居るわけでもなく、酒もうまい訳ではない。料理も天国から仕入れた調味料が無ければろくなものは作れない。
何故、このような場合に来たがるか。
魂達の異変は天国でも起きているのか、調査員が天国に向かったがこちらは今までと変わりない。むしろ、今までより天国の環境を有り難がる魂が増え、次の転生への意欲が増した魂が多いのだから天国としてはいい傾向と言える。
地獄はその性質上、『もう二度と来たくない』と思わせる必要がある場所だ。
「また来たい」なんて言われてしまっては、それはもう地獄が地獄としての役割を果たせていない事になってしまう。
「魂達の反応の調査をしましょう。」
一人の小鬼がそう提案した。なるほど確かに、魂達の反応を見れば何が原因でこうなったのかわかるかもしれない。
もしかしたら、長年の経営の中で弛んでいる部署ができてしまったのかもしれない。
地獄を運営する組織の問題点の炙り出しもできる、素晴らしいアイデアだと鬼達はその小鬼を絶賛した。
まず調査したのは魂達の環境に対する反応だ。
ガスの充満した灼熱の地、これをどう思うか聞き取り調査をした。
「暑すぎる」「視界が悪い」
確かにそういった意見はあった。しかしこれは昔からあるもの、そして目指している姿だ。
「暑すぎる気もするが凍えることがないから幸せだ」「何もかもが見えてしまうより、ある程度隠されていた方がいい」
こんな意見が出現していた。
「魂達は何故、地獄を肯定的に見ることができてしまうのでしょうか?」
「私にもわからん。こうなったら現世に視察に行くしか無さそうだ。」
そうして小鬼達は現世を覗き見、そして愕然年た。
現世はもはや地獄より恐ろしい場所である。
ごく一部の恵まれた者に、それ以外が奴隷の如く使われ、現世はもはや生命を消費し魂を送り出すだけの場所と化していた。
「これはもう、我々には何も出来んな。まったく、『私に任せておけ』とか言いながら、神は何をしているんだ。」
そんな小鬼のぼやきを、神は知ることすらない。
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