(2)

「久崎の事で一つ気になる事があってな」


 それは海斗が死んだ事を知らせる君塚からの連絡を受けた時だった。

 あの時、苛立ち何やら急ぎの様子だった君塚にしっかりと話を聞く事は出来なかったが、その内容は事件においてかなり重要な発言だった。


「久崎の死は、明確に立証されていないようだ。これは、ひょっとするかもしれん……」


 詳細な説明はなく、そこで話は一旦終わってしまった。結局、それが分かる前にこんな事態になってしまったが、君塚の疑念はおそらく正解だと健二は思った。

 久崎信也は生きている。ともかくそれを証明する為にも、理沙の安否を確認する為にも、今は椚に急ぐしかない。しかし、急ぐにしても健二は単車や車を持っていない。今自分が出せる速度は自分の足だけという頼りない状況だった。。タクシーでも掴まえようかと思ったが残念ながらすぐにタクシーが通ってくれるような場所でもない。電車を使うしかないかと項垂れそうになった時、携帯の振動が伝わった。表示は君塚だった。


「何やってるんですか! 君塚さん! 理沙は!?」


 開口一番出た言葉は君塚への純粋な怒りだった。君塚が傍にいながらも理沙に危険がおよでいるのだ。状況が何も分からないが、ともかく君塚が動けるのであればその力を貸してもらう他ない。


『……すまない。完全に不意を突かれた』


 君塚の声はいつものひょうひょうとしたものではなく、犯人に隙を取られた事への悔しさと怒りが滲み出ていた。


「理沙は!?」

『あの子か……車内から連れ出される所までは確認したんだが……』

「信也から連絡がありました」

『何だと!?』

「今から奴に会いに行きます」

『会いにって……奴はどこに?』

「おそらく、椚中学に」

『椚……そうか。健二君、君は今どこに?』

「築島です。とりあえず足がないんで、電車で移動する所です。でもこれじゃ間に合わないかもしれない」

『築島か……分かった。なら伊崎駅まで移動してくれ。そこで君を拾う』

「分かりました。君塚さんは大丈夫なんですか?」

『全身が痺れるが、何とか動けはする。ともかく僕も急いでそっちに向かう』


 電車がホームに入ってきた。

 轟音に声がかき消されそうな中で、健二はどうしても尋ねておきたい事があった。


「君塚さん、信也にやられたんですか?」


 君塚は直接信也に襲撃を受けた。ならその顔を見ているはずだ。

今の信也の姿がどんなふうに成長しているかは健二も分からないし、君塚も当然そこは同じだろう。だがそれでも聞いておきたかった。

 本当に、全てが信也のものであるかどうか。


『健二君。僕達を襲ったのは、久崎じゃない』

「え?」

『僕達を襲ったのは――』


 君塚の言葉の意味が健二には理解出来なかった。

 そして全てが、足元から崩れ去った。


「なんで……」


 ――どういう事だ……。


 混乱した頭を整理する事も出来ぬまま、健二は電車の中へと乗り込んだ。

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